浅沼宏和ブログ

2017.08.08更新

第15章 世界的な資本税

1. 21世紀のグローバル化した世襲資本主義を規制するには20世紀の税制モデルと社会モデルを見直して現代社会に適合させるだけでは不十分だ。理想的なツールは資本に対する世界的な累進課税で、それをきわめて高水準の国際金融の透明性と組み合わせなければならない。

2. 世界的な資本税というものは空想的な発想だ。世界各国がこんなものに同意するなど当分の間は想像もできない。目的達成のために世界中のあらゆる富についての税率表を作り、その歳入をどう山分けするかを決めねばならない。

3. 当分の間は実施できないとしても、世界的累進課税の検討は政策の参照点としては意義を持つ。これを基準として他の提案を評価するわけだ。

4. 保護主義と資本統制は、世界的な資本税の代替案としては不十分。世界的な資本税は経済の開放性を維持しつつ、世界経済を有効な形で規制し、その便益を各国同士や各国の中で公正に分配できる長所がある。

5. 世界的資本税の導入は可能だ。まずは大陸か地域レベルで導入し、その後地域間の協力を密接にするように取り組めばよい。

6. 金融透明性と情報共有の問題は理想的な資本税と密接に関連する。

7. ピケティの提案する資本税は世界のあらゆる富に対する累進的な年次課税。

8. 多くの国には固定資産税があるが、不動産だけに基づいている点が問題だ。

9. 資本税の主要な目的は財源を賄うことではなく、資本主義を規制することにある。まず、富の格差の果てしない拡大を止め、危機の発生を避けるために金融と銀行のシステムに有効な規制をかける。

10. 資本税はまず民主主義的、金融的な透明性を促進しなければならない。誰が世界中でどんな資産を持っているかが明確になる必要がある。

11. 世界の金融システムの監督規制を行う国際機関は金融資産の分布について大雑把な情報しか持っていない。タックス・ヘイブンに隠された資産の量ははっきり把握できていない。

12. 資本に対する0.1%の税金は、本当の税金というよりは申告義務づけ法のような性格のものだ。ある資産の合法的な所有者と認められるためには、所有している資本資産を財務当局に申告しなければならないことにするということ。

13. 資本課税は政府に対し、銀行データの自動共有をめぐる国際合意の明確化と拡大を強制する。

14. 世界的な資本税への第一歩は、国際レベルで銀行データ自動送信を広げ、納税者全てに計算済みの資産一覧を発行するに当たって外国銀行で保有されている資産の情報も含めるようにすることだ。

15. 自由貿易と経済統合でお金持ちになった個人が隣人たちを犠牲にして利潤をかき集めるなどというのは窃盗以外の何者でもない。

16. 自国内の金融機関に必要な書類の提出を義務づけない国々に対しては自動制裁を加えるとよい。

17. 累進所得税が存在し、ほとんどの国で累進的な相続税もある以上、累進資本税の目的とは何か?それには貢献的な理由、インセンティブ面での理由という二つがある。

18. 所得は裕福な個人にとってしっかりと定義されているとはいえない。だから金持ちの貢献能力をきちんと評価できるのは資本の直接課税だけ。富の階層のトップにある財産がきわめて高い収益を得ているとすれば、この貢献能力に基づく議論は累進資本税を正当化するために最も重要なものになる。

19. もう一つの理由は、資本税が最高の収益を求めるインセンティブになるという発想。富に1-2%の税金をかけても資本から年10%を稼げる実業家からすれば税は比較的軽いから。これに対し、自分の富を年最大2-3%しか稼がない投資に回している人にとっては高い税率に感じられる。

20. しかし、現実は必ずしも理屈通りにいくとは限らない。資本収益率は必ずしも資本家の努力や才能に依存しているわけではなく、財産規模に応じて平均収益率は系統的に変わる。さらに、個人の収益の相当部分は予測しにくいから。

21. 資本に対する永続的な年次課税の税率はそこそこ穏健なものでなければならない。今日のヨーロッパでは民間財産が極めて高い水準(GDP5年分)にあるので、低い税率であっても富への累進的な年次課税は巨額の税収をもたらす。しかも富の大半は上位百分位の上の方に集中している。

22. 理屈の上ではEU加盟国がそれぞれこうした税金を独自に導入すればよいのだが、EU領土内外における銀行情報の自動共有がなければ、租税海保の危険性が極めて高くなる。

23. ヨーロッパ全体での富裕税というのは現実的か?技術的には現実的でないと考えるべき理由はない。

24. 資本税は民間資本とその収益という永遠の問題への対応としてもっとも非暴力的で効率的だ。不等式r>gだけでなく、最初の規模に応じて資本収益にも格差が出るという問題に対する最も適切な対応でもある。

25. ただし、資本税は新しいアイディアなので21世紀のグローバル化した世襲資本主義に適合させる必要がある。

26. 資本税以外の代替案には何があるか?もっとも単純な代替案は保護主義と資本統制だ。

27. 保護主義は発展の遅れた産業部門を保護するのに便利、また、ルールを尊重しない国に対する価値ある武器にもなる。ただし、保護主義が大規模かつ長期にわたって導入されると、それ自体としては繁栄の源にも富の創造者にもならない。さらに少数者に富が蓄積する傾向に歯止めをかける力はない。

28. 資本統制はほとんどの富裕国において1980年代以来行われてこなかった。しかし、2008年の金融危機以来、こうした在り方について深刻な疑念が台頭し、今後数十年で富裕国がますます資本統制に頼る傾向が高まる見込み。

29. 一部の国ではずっと資本統制を実施してきた。特筆すべきは中国で、資本の流入、流出に厳しい資本統制を行っている。特に流出資本の問題は現在、中国がかなりピリピリしている問題。中国の富裕層は資産を国外に持ち出すことは困難になっている。こうした中国のやり方は不透明かつ不安定だが、富の格差動学を統制し押さえる手法の一つであることに違いはない。

30. もしヨーロッパ諸国が資本を協力的かつ有効に規制しなければ、各国が独自の統制や国民的嗜好を規制化する可能性が高い。この点で中国が明確に有利であり、資本統制で中国を任すのは困難だろう。資本課税は資本統制のリベラルな形態であり、こちらのほうがヨーロッパの比較優位に適しているのだ。

31. グローバル資本主義とそれが生み出す格差を規制するとなると、天然資源の地理的分布、特に「石油レント(石油からの収入)」の地理的分布が特に問題になる。世界は単一の民主コミュニティではないので、天然資源再分配がしばしば平和的ではない方法で決まる。

32. 国際社会はできる限り軍事力による富の再分配を避けるべきであり、石油レントの最も公正な分配を実現する別の方法を見つける義務を負うべきだ。その手法には、制裁、税金、外国援助などがある。そういう手法を使って原油のない国にも発展する機会を与えるべきだ。

33. 再分配と世界の富の格差規制について一見すると最も平和的に思える形態が移民だ。資本を動かすといろいろ面倒だが、労働を賃金の高いところに移動させた方が簡単だからだ。これはもちろん世界的な再分配に対する米国の偉大な貢献だ。

34. 独立戦争の頃にはわずか300万人しかいなかった米国が何度も続いた移民の波で3億人以上となった。移民は米国をまとめ上げているセメントであり、蓄積資本がヨーロッパのような重要性を持つのを防いでいる安定力でもある。これはまた、米国でますます増大する労働所得格差を政治的にも社会的にも容認できるものにしている力でもある。

35. 米国での所得分布の下半分にいる移民の多くにとって格差は二次的意義しか持っていない。彼らの出身国はずっと貧しく、米国に来たことで自分の所得は上昇しつつあると感じられるからだ。

36. 近年、貧困国に生まれた個人が富裕国に引っ越すことで生活水準をあげるという、「移民」を通じた再分配の仕組みはヨーロッパでも重要な要因になっている。

37. 移民を通じた再分配は望ましいものであるが、格差問題のごく一部しか解決できない。移民による再分配は格差の問題を先送りするものにすぎない。所得と資本に対する累進課税を持った社会国家は必要なのだ。

 

 

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2017.08.08更新

第14章 累進所得税再考

1. 課税における20世紀の大イノベーションは累進所得税の考案と発展だ。この制度は20世紀における格差低減に重要な役割を果たしたが、今では国際税制競争により深刻に脅かされている。

2. 課税は技術的問題ではない。何よりも政治哲学の問題であり、あらゆる政治課題の中で最も重要。税金無くして社会は共通の運命を持たず、集合的な行動は不可能だ。あらゆる主要な政治的蜂起の核心には財政革命が存在する。

3. 人は通常、所得課税、資本課税、消費課税の三つに分けて考える。しかし、20世紀には税金の第四の分類が現れた。社会保障拠出金だ。これは所得課税の特別な形態だ。

4. 定義面で重箱の隅をつつくより、もっと有意義な各種税金の特徴づけは、どこまで比例的か累進的かというもの。現代の税制国家では納税総額はおおむねその個人の所得にほぼ比例しており累進的ではない。特に納税総額の大きい国でその傾向がみられる。

5. しかし、累進課税が現代の再分配で限られた役割しか果たさないと結論付けるのは間違い。

6. 1980年以来の米英における所得税率累進性のすさまじい低下は、きわめて高い労働所得の増加の相当部分を説明する。同時に、近年の自由な資本フロー世界における税制競争の台頭により、多くの政府は資本所得を累進所得税から除外した。その結果の一つとして、多くの国で税金は所得階層トップでは逆進的になっている。

7. トップ百分位で見られる明らかな逆進性は、この水準では資本所得が重要になることを反映している。資本所得は累進課税からほとんど除外されている。

8. きわめて富裕な市民への税制上の優遇措置は特に中流階層の不満を呼ぶだろう。

9. システム全体が不公正であるなら、なぜ他人のために支払を続けなければいけないのか?現代の社会国家が存在し続けるためには、その根底にある税制の最小限の累進性を維持するか、少なくともトップ層での逆進性が露骨にならないようにしなければならない。

10. 相続財産の重要性は高まりつつある。現実には遺産は所得よりも税率がずっと低い。

11. つまり累進税性は社会国家の極めて重要な構成要素なのだ。

12. 累進課税は民主主義の産物であると同時に、両大戦の産物でもあることを理解する必要がある。その場しのぎが必要な混沌とした環境で採用されたものであり、各種の狙いはそれほど十分に考え抜かれていない。

13. 20世紀初頭、累進性の原理と全所得への適用に関する国際的なコンセンサスが台頭しつつあった。多くの人にとって公正であり効率性が高いように見えた。全体としての所得でその人の貢献能力を計測できるし、累進課税は産業資本主義がもたらした格差を制限しつつ、私有財産と競争の力を尊重し続ける手法とされた。しかし、累進性の原理そのものを非常に嫌う人も多かった。

14. 1914-1918年のショックが累進的税制への動きをもたらした。第一次大戦までは、課税所得がどんなに高くても税率10%以下でなければ適正な所得税とはいえないというのが先進国すべてに共通の見方だったようだ。

15. 同じことは累進相続税にも当てはまった。相続税率もかなり低いままに保たれていたため、相続財産がほとんど無傷で世代から世代へと引き継がれるのを止めることはできなかった。

16. 20世紀の累進課税の歴史を見るとイギリスと米国が突出して先んじていた。両国では20世紀半ばには最高相続税率70%以上になっていた。こうした政策の狙いは追加の税収にあるのではなく、むしろ巨額の所得や相続財産を無くそうとしたことにある。何らかの理由で、それらが社会的に容認できず、非生産的だとみなされるようになった。

17. 重要な点として、大陸ヨーロッパの国でこれほど高い税率を課したところは全くなかった。

18. アングロ・サクソンが累進課税に惹かれていることは相続税を見るとはっきりする。米国で最高相続税率は1930-1980年代にかけて70-80%の間であったが、フランスとドイツでは例外的状況を除き、30-40%を超えることはなかった。

19. イギリスは米国同様に相続税率が高かった。英米では稼いだ所得より稼いでいない所得の方があやしげだと考えられていたようだ。英米と大陸ヨーロッパの好対照ぶりには驚かざるを得ない。

20. 1930-1980年までの平等性への大いなる情熱を経験した後に、英米では同じくらい熱心に正反対の方向へと転換した。アングロ・サクソン諸国は金持ち相手にヨーヨーを繰り返したわけだ。

21. こうした方向転換は、英米が「他国に追いつかれるのではないか」と危機感を覚えたことが原因かもしれない。その危機感がレーガン主義、サッチャー主義の台頭を招いた。

22. すべての先進国を見ると、1980年から現在までの最高限界所得税率の低下規模はトップ百分位が国民所得に占めるシェアの増加幅と密接に関係していることが分かる。最高税率が最大の下落を示した国々は国民所得に占める最高所得者たちのシェアが最大の伸びを見せた国でもある。

23. 最高所得税率が高かった時代、企業の重役たちはムリをしてまでも昇給を勝ち取ろうとはしなかった。累進税率によって昇給の大部分が政府に行ってしまうからだ。ところが今では重役たちはすさまじい努力をして巨額の昇給を認めさせようとしている。

24. 最高所得に対して没収的な税率をかけるのは、超高給与の増大を阻止する唯一の方法だということだ。先進国での最適な最高税率はおそらく80%以上だ。

 

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2017.08.08更新

第13章 21世紀の社会国家

1. 18世紀以来の富の分配と格差の相当部分は20世紀の両大戦によって一掃された。21世紀に入って富の格差が復活している。

2. 今日のグローバル世襲資本主義を効率と公正さを両立させる形で規制するような政治制度は考えられるだろうか?

3. 理想的な手法は資本に対する世界的な累進課税だ。しかし、世界的な資本課税はまちがいなくユートピア的な理想でしかない。それが無理でも地域や大陸単位での課税は貸すことができる。

4. 2007-2008年に始まった世界金融危機は1929年の大暴落に対比されるが本質的な違いがある。最近の危機は1930年代の大恐慌ほど壮絶な不景気につながっていないということ。

5. 1929-1935年にかけて先進国の生産は4分の1も下落し、失業が増え、第二次大戦がはじまるまで世界は大恐慌から完全には復活しなかった。

6. 近年の危機には大恐慌ではなく「大不況」という名前が与えられている。ヨーロッパでは次々と国家債務危機が浮上したが、不景気のどん底でも最富裕国における生産は5%以上は下がらなかった。

7. 2008年危機が深刻な崩壊を引き起こさなかった主な理由は、富裕国政府や中央銀行が金融システムの崩壊を許さず、銀行破たんの波を避けられるだけの流動性を作りだすことに成功したから。

8. しかし、危機の原因となった構造問題である金融の透明性は嘆かわしいほど欠けたままであるし、格差も上昇している。

9. かつての大恐慌はたしかにひどいものだったが、少なくとも租税政策や政府支出に劇的な変化をもたらしたという点ではよかった。

10. よい経済社会政策は超高所得に対する高い限界税率以上のものを必要とする。21世紀の課題対応に最も適した道具は累進所得税よりはむしろ累進資本課税だ。

11. 国家の影響力は1930年代当時よりはるかに大きくなっており、その点では史上空前の水準になっている。経済への国家介入が高まる可能性は今日ではかつてとは違った問題を引き起こす。

12. 反市場派と反国家派はどちらも部分的には正しい。暴走する金融資本主義に対する統制を取り戻すには新しい道具が必要。同時に現代の社会国家の核心にある税制と政府支出システムは改革と現代化を常に必要としている。それらあまりに複雑化し、理解困難になっており、その社会的・経済的有効性まで犠牲になりかねなくなっている。

13. 富裕国はすべて例外なしに、20世紀の間に国民所得の10%未満が税金になるという近郊から、国民所得の3分の1から半分にまでその数字が上がった新しい均衡に移行した。

14. 「国家の復活」という問題の立て方は誤解。政府の役割はもともと空前の規模にある。国家の役割を理解するには色々な指標の検討が必要。

15. 政府予算の増大という大躍進はすでに起きた。こうした形での第二の大躍進は起こらない。

16. 税収は「社会国家」の構築に使われた。19世紀の政府は「君主的」役割を果たすだけで満足していたが、増大する税収で政府はますます広い社会的機能を引き受けられるようになった。これが今や国民所得の4分の1から3分の1を消費している。その半分は保健医療と教育、もう半分が代替所得(年金・失業保険)と移転支払(家族給付・公的扶助)だ。

17. 代替所得と移転支払の総額の中で圧倒的割合を占めるのは年金。

18. 年金の支払いに比べ、失業保険への支払いはずっと小さい。

19. 現代の所得再分配は金持ちから貧乏人への所得移転を行うものではない。むしろ、おおむね万人にとって平等な公共サービスや代替所得、特に保健医療、教育、年金などの分野の支出を賄うものである。

20. アメリカ革命とフランス革命はどちらも権利の平等を絶対的な原理として認めた。しかし、実際問題としては19世紀を通じてこうした革命から生じた政治体制は主に財産権保護に専念した。

21. 現代の所得再分配は20世紀に富裕国が構築した社会国家に見られるように、いくつかの基本的な社会権に基づいている。教育、保健医療、年金生活についての権利だ。これらは今日、さまざまな限界や課題に直面しているが、歴史的に言えばすさまじい進歩になっている。

22. 一方、社会国家の規模をこれまで以上に増やすのは現実的でも望ましくもない。理由は二つ。

23. 一つは、第二次大戦後の30年で見られた政府の役割の急速な増大は、例外的に急速な経済成長に大きく助けられてきた。所得が毎年5%ずつ増えるなら、その成長の多くの部分が社会支出に振り向けられる。しかし、所得が年1%しか成長しないのならば誰も大規模で持続的な増税など望まない。

24. あらゆる富裕国で国ごとの違いや政権交代にもかかわらず、税収が横ばいだという事実は決して偶然ではない。

25. 二つ目は、公共部門がいったんある規模を超えて成長すると組織上の深刻な問題に直面するということ。

26. 多くの国で、社会国家を巡り、組織、現代化、縮小の問題を扱うことになるだろう。

27. 教育に対する公共支出の主要な目的の一つは社会的モビリティの促進だ。しかし、20世紀を通じた平均教育水準の上昇にもかかわらず、所得格差は減らなかった。職場で求められる学歴水準が上昇し、現在の高卒がかつての小卒並みの意義しか持たない。大卒は高卒と同等だ。

28. 社会的モビリティはヨーロッパより米国の方が低い。米国のエリート大学の学費は極めて高く、高等教育への不平等アクセスの問題が生じている。両親の所得を見れば教育へのアクセスを完全に予測できる。

29. ハーバード大の学生の両親の平均年収は45万ドル。これは米国の所得階層のトップ2%の平均所得に相当する。

30. 米国ほどではないが他国にも類似の状況がある。

31. 高等教育における真の機会平等を実現するお手軽な方法はない。

32. 公的年金制度は通常、ペイゴー方式になっている。現役労働者の賃金から差し引かれた年金拠出金がそのまま退職者たちの年金として支払われている。ペイゴー方式は世代をまたがる連帯の原理に基づいている。また、経済成長率の高さと平均賃金上昇を前提としている。

33. 今日の状況は違う。成長率低下は共有された拠出金プールに対する収益を減らす。21世紀の資本収益率が経済成長率よりずっと高くなることの予想からすると、ペイゴー方式はなるべく早めに積み立て方式に置き換えるべきと結論づけたくなる。

34. しかし、ペイゴー方式を積み立て方式に移行するには根本的な問題がある。退職者のまるごと一世代が全く何も得られなくなるのである。

35. 二つの年金方式を比べるに当たり、資本収益率の変動性は実際にはかなり高いことを念頭に置くべき。あらゆる退職積立金を世界金融市場にすべて投資するのはかなりリスクが高い。平均ではr>gといってもあらゆる個別投資に当てはまるわけではないからだ。

36. もう一つの課題は人口の高齢化だ。

37. 社会国家化について国によっての違いがある。富裕国同士の重要な違いは、西欧諸国では政府歳入は国民所得のほぼ45-50%で安定させたが、米国と日本はほぼ30-35%で止まっているようだ。

38. アフリカや南アジアでは政府歳入は国民所得の10-15%しかない。これでは伝統的な君主的役割以上のたいした機能を国が果たすことはできないようだ。

 

 

 

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2017.08.08更新

第12章 21世紀における世界的な富の格差

1. 金融グローバル化の力がかつてないほど大きな資本の集中を招く可能性はあるだろうか?

2. 多く経済モデルは資本収益率がその人の富の大小にかかわらず等しいと想定する。しかし、そうではない。

3. 理由1、財力が大きければアドバイザーなどを雇うことができる。理由2、財力が大きければ、たやすくリスクを取ったり、気長に待ったりできる。

4. 平均資本収益率が4%の場合、裕福な人たちの収益率が6、7%で、裕福でない人たちは2、3%の低い収益率に甘んじるしかないことは十分ありうる。

5. 世界の富の階層トップ十分位、百分位の富が構造的な理由で下の階層よりも急速に成長するのなら、富の格差は際限なく広がりやすい。

6. 巨額の財産は数十年のうちに極端な水準に達する可能性がある。不均等な資本収益率は不等式r>gの影響を大きく増幅し、悪化させる格差拡大の力だ。

7. これに対する唯一自然な拮抗力は成長だ。世界の経済成長率が高い場合、巨額の財産の相対的成長率はゆるやかなままとなる。

8. 長い目で見ると貧困国が富裕国に追いついて世界の成長率が緩やかになった場合、資本収益の格差の方がはるかに大きな懸念事項になりえる。長期的には国内の富の格差は国家間の富の格差より確実に厄介だ。

9. 経済紙『フォーブス』の世界富豪ランキングによると、1987年に億万長者は140人超いたが、2013年ではそれが1400人超と10倍に増加した。

10. 1980年代以来、世界の富は平均して所得より少し速めに増加しており、最大の富は平均資産よりはるかに急速に増加している。

11. トップ千分位が世界の富の約20%、トップ百分位が約50%、トップ十分位がおよそ80-90%を所有しているようだ。つまり世界の富の分布構造の下半分が所有しているのは、どう見ても世界の富の総額の5%未満でしかない。

12. 世界的な富の階層の上部間で見られる格差拡大の力はすでに非常に強力になっている。

13. 富の階層の上部で働く格差拡大の力は世界的なキャッチアップと収斂の力を上回り、トップ十分位、百分位のシェアは大きく増加し、中産階級と上位中産階級から超富裕層への再分配が大幅に増加している。

14. 累進資本税のみがこのような動学を効果的に阻止できる。

15. ひとたび築かれた財産は、資本の動学に従って増加し、ただその規模ゆえに数十年にわたって急速度で増加を続けられる。

16. トップレベルの企業家の場合、最大の相続財産は同族会社に投資され続けていると想定できる。

17. その下の規模のグループになると多くの相続財産が分散型ポートフォリオとして所有されている可能性が高く、そうなるとジャーナリストたちにはなかなか見つけられなくなる。

18. 資本収益は、本当に起業家的な労働、まったくの運、明白な窃盗の要素が分かちがたく結びついたものというのが実情。富の蓄積の恣意性は相続の恣意性よりもっと幅広い現象。

19. 大学の基金も10年、20年、30年の平均で見ると億万長者と同じように極めて高い収益をあげてきた。収益は基金の規模に応じて急増してきたと言える。大学基金の例は、大規模な初期所有財産がすぐれた収益をもたらし、それが資本収益にどれほど大きな格差をもたらすかをハッキリ具体的に示すもの。

20. ささやかな規模の格差r-gがあれば、極めて不平等な富の分布にたどり着く。

21. さらに重要なのは富裕層が常に益々高度な新しい法制度を持ち出して、資産保護にあたっていること。信託基金、財団などはしばしば税金逃れに使われる。

22. 財団は設立者一族の私的な目的と慈善目的の両方に使われることが多く、基本的には慈善目的の財団であっても、たいてい資産の支配権は慎重に維持されている。重要な点は非公開の法的文書にしばしば隠されている。

23. インフレ率が高まると資本収益にどんな影響が出るか?資産価格も同等に増加すると考えられる一方で、インフレ率が市民の平均収益の分布を変える可能性もある。実際にはインフレが引き起こす再分配は常に複雑かつ多元的で、ほぼ予測不能でコントロールできないという問題がある。

24. インフレは有閑階級に対する税、もっと正確には投資されていない財産に対する税と言える。しかし、インフレの影響を免れるには実物資産(不動産や株)に投資するだけで良い。

25. インフレの主な影響は資本の平均収益を減らすことではなく、それを再分配することにある。

26. しかし、現代のインフレは中央銀行にとって極めて切れ味の悪い道具であるとの認識が必要だ。富の格差を減らす目的であれば、累進資本課税の方が民主的透明性、現実の有効性の両方においてもっと適切な政策だ。

27. 石油輸出国の政府系ファンド(ソヴリン・ウェルス・ファンド)が成長している。ファンドを通じた石油輸出国による投資の問題は富裕国でますます顕著になりつつある。

28. ソヴリン・ウェルス・ファンドはファンド収益の再投資だけではなく、石油販売の利益の一部も投資して成長している点に特徴がある。現在、ファンドは世界の総民間財産のおよそ1.5%を所有しているが、2030-2040年には世界の資産に占めるシェアが少なくとも現在の2―3倍大きくなることはほぼ確実。

29. 中国など石油輸出のない新興国が急速に成長しつつあるのはたしかだが、この急成長は生産性と生活水準が先進国に追いつくと終わることが実証されている。知識と生産技術の普及は根本的に均等化のプロセスで、比較的遅れている国々がもっと先進的な国々に追いつくと急成長は止まってしまう。

30. 21世紀を通じてアフリカの資本/所得比率は他の大陸より低いと予測されている。資本が自由に国境を越えて流入できる場合、他国、特に中国などアジア諸国からアフリカへの投資フローが増えると予測される。これが深刻な緊張をもたらす可能性があり、その兆候はすでに顕在化している。

31. 格差拡大については産油国の影響の方が中国などの影響よりはるかに大きい。現在広まっている中国に所有されつつあるという恐怖は全くの幻想に過ぎない。富裕国は自分で思っているより実際ははるかに裕福なのだ。

32. フランス国民の多くはパリの不動産価格が高騰しているのは、外国の富裕層による買い占めのせいだと信じている。しかし、現在高騰している不動産価格の97%は物件に大金を払う余裕があるフランス在住フランス人の買い手が十分にいるせいだ。

33. ヨーロッパの住民の大部分にはヨーロッパの世帯が中国の20倍の資本を所有していることはかなり理解しづらいだろう。

34. もう一つ重要なのは、世界の金融資産の大部分がさまざまなタックス・ヘイブンに隠されていて、世界的な富の地理的分布の分析に限界をもたらしている点だ。

35. 報告されていない巨額の金融資産がタックス・ヘイブンに存在している。この金額は世界のGDPのおよそ10%に相当するという推計もある。

36. 富裕国の最も富裕な住民たちが資産をタックス・ヘイブンに隠しているため、富裕国が貧困国に対して持つポジションの実態が覆い隠されている。

 

 

 

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2017.08.08更新

第11章 長期的に見た能力と相続

1. 今日の資本の一般的な重要性は18世紀と大差がない。形が変わっただけ。かつての資本は土地、今ではそれが産業資本、金融資本、不動産資本。

2. 富の蓄積の論理を理解するには、資産形成における相続と貯蓄の相対的役割が長期的にどう変わったかを見る必要がある。

3. 資本収益率が経済成長率よりも大幅かつ永続的に高いなら、相続が貯蓄よりも優位を占めるのは避けがたい。

4. r>gという不等式はある意味では過去が未来をむしばむ傾向を持つということ。過去に創出された富は労働を加えなくても労働に起因する貯蓄可能な富よりも自動的に増大する。

5. 21世紀の格差構造が19世紀と同じになるわけではない。富の集中はそれほど極端ではないし、以前よりも富と所得の相関が高まっている。21世紀にはスーパー経営者と中級不労所得生活者を兼ねられるようになる。新たな能力主義の秩序がそれを奨励する。そのしわ寄せは低、中賃金労働者、中でも財産のない人々に行く。

6. どんな社会でも富を蓄積する過程は主に労働と相続の二つ。

7. 一般的に、経済的な相続と贈与の年間フローの国民所得比を指すbyは、三つの力の席に等しい。

8. By=μ×m×β  βは資本/所得比率、mは死亡率 μは生存者1人当たりの平均財産に対する死亡時の平均財産

9. βは自明の理を表している。相続財産フローが高いということは相続可能な民間財産の総ストックが大きいことになる。

10. 死亡率mが高ければ高いほど相続フローが大きくなる。

11. 死亡時の平均財産が人口全体の平均財産と同じと仮定するとμ=1。すると相続フローは死亡率mと資本所得比率βの積になる。たとえばβ600%、成人死亡率が人口の2%ならば、年間相続フローは12%になる。もしも死亡時の平均財産が2倍ならμ=2であり、相続フローは国民所得の24%になる。これは19世紀と20世紀初頭の水準に近い。

12. μは富の年齢分布に左右される。年齢と共に資産が増加する割合が大きいとμは高くなり、その結果相続フローも大きくなる。

13. 逆に、富の第一の目的が老後資金であり、高齢者が労働期間中に蓄積した資本を老後に消費する社会では、富のライフサイクル理論に従って死ぬ時に資本がほとんどない状態になるため、構造的にμはゼロになる。

14. 多くの人は第二次大戦後の楽天的な数十年間に相続財産が終焉に向かうと想像するようになった。しかし、相続財産が次第に消えると考えるべき理由は存在しない。

15. 平均余命が延びると死亡率mが下がり、相続までの時間が長引く。すると相続フローが国民所得に占める割合も小さくなる。

16. 21世紀前半から半ばにかけて予想されるベビーブーマー世代の高齢化、その後の死亡率上昇によって20世紀後半の相続フロー低下と今後の相続フロー急上昇をある程度説明できる。

17. 19世紀の平均相続年齢はわずか30歳だった。21世紀にはそれが50歳前後になる。

18. 人々の死亡が遅くなり、相続が遅くなっても相続財産の重要性は失われない。生前贈与の増大が年齢効果を多少は相殺するし、高齢化社会ではもらう資産額も増える。

19. フランスでは常に死者の方が生者より裕福で、μは常に100%より大きい。

20. 1970年代以降の贈与の重要性の増大により、贈与受領者の平均年齢が低下。21世紀初頭の相続者の平均年齢は45-50歳、贈与受領者のそれは35-40歳。

21. 19世紀を通じて資本が集中するにつれ、資産が非常に高齢化した。1820年代の50代人口に比べると高齢者は平均でわずかに裕福だった。その後、その差は着実に開いていった。第一次大戦前夜のパリでは、70代、80代は平均すると50代よりも3倍から4倍も裕福だった。

22. 富の集中の大半を説明する支配的動学は不等式r>gから必然的に生まれる。50歳、60歳の人が所有する富が相続によるか稼いだものかに関わらず、ある閾値を超えると資本は自己再生産して指数関数的に蓄積する傾向にある事実は変わらない。

23. こうした自己維持的なメカニズムは、1914-1945年に資本とその所有者が被った度重なるショックによって崩壊した。富の大幅な若返りは両大戦がもたらした結果の一つ。

24. 1940年に60歳で、爆撃、接収、破産によって持てるすべてを失った人が立ち直れる望みはほとんどなかった。対照的に1940年に30歳であれば戦後に富を蓄積する十分な時間があり、1950年代に40代になった頃には70代の人々よりも裕福になっていただろう。

25. 戦争は全てのカウンターをゼロ、あるいはゼロ近くにリセットした。

26. 「復興資本主義」は本質的に移行過程であり、構造転換ではなかった。戦後、再び資本の蓄積が始まり、資本/所得比率βが上昇すると、資産は再び高齢化を始め、平均死亡財産と平均生存時財産の比率μも上がった。

27. 貯蓄行動がどのようなものであっても、資本収益率が上がり、成長率が下がると、資本の累積プロセスが速くなり、不平等になる。

28. 国民所得の20%にあたる年間相続フローが約30年続けば、国民所得約6年分という膨大な額の遺産や贈与が蓄積され、それが民間財産のほとんどを占めることになる。

29. 相続財産が総財産に占めるシェアは1970年代以降着実に増え続けている。

30. 相続フローを国民所得に対する比率ではなく、可処分所得の比率として表すと、2010年代初頭にフランスの世帯が毎年受領する相続と贈与は可処分所得の約20%になり、その意味では相続は未だに1820-1910年と同じくらい重要。

31. 社会階層の頂点で相続資本所得が労働所得よりも大きな割合を占める社会では、二つの条件が満たされなければならない。一つは、資本ストック中の相続資本のシェアが大きいこと。もう一つは相続財産の極端な集中。

32. 来るべき世界は過去の最悪な二つの世界が合体したものになるかもしれない。一つは、能力や生産性の観点から正当化されたすさまじい賃金格差、もう一つは、相続財産の非常に大きな格差。この二つが存在する世界になるかもしれない。

33. 現代社会の格差の正当化に能力主義への信奉が大きな役割を果たす。

34. 21世紀には最終的に相続資本分布が19世紀と同じくらい不平等にならない保証はない。ベル・エポック期と同じぐらい極端な富の集中に回帰するのを妨げるような不可避の力は存在しない。特に、成長が遅くなり、資本収益率が増大した場合はなおさら。

35. 格差を拡大させる基本的な力は、市場の不完全性とは何の関係もなく、市場がもっと自由で競争的になっても消えない不等式r>gにまとめられる。制限のない競争によって相続に終止符が打たれ、もっと能力主義的な世界に近づくという考えは危険な幻想。

 

 

 

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2017.08.07更新

第10章 資本所有の格差

1. 資本/所得比率が高まり経済成長が低下する中で資本所有権が再び集中しつつある。

2. 富の分配は常に労働所得の分配よりもずっと集中している。どんな時代のどんな社会でも人口の貧しい下半分は実質的に何も所有していない。

3. 国富の4分の1から3分の1を所有する中流階級の出現が長い目で見た時に富の分配を左右した最も重要な構造変化であることは間違いない。

4. なぜ第一次大戦以前に富の格差が極端に増大したのか?21世紀初頭に富が再び繁栄しているのに今日の富の集中は歴史的最高記録よりも著しく低いのか?この状況が昔に戻る可能性はあるか?

5. 富の集中は1914-1945年のショックから未だ完全には立ち直っていない。

6. 米国での富の格差は所得の格差同様に1910-1950年の間に低下したが、ヨーロッパほどではなかった。もともと格差が小さく、戦争によるショックもそれほど激しくなかったから。

7. 伝統的農耕社会と第一次大戦以前のほぼすべての社会で富が超集中した第一の原因は、これらが低成長社会で、資本収益率が経済成長率に比べ、ほぼ常に著しく高かったから。

8. g=1%、r=5%ならば、資本所得の5分の1を貯蓄すれば残りをすべて消費しても、先行世代から受け継いだ資本は経済と同じ比率で成長できる。この相続資本の優位性がr>gという基本的不等式の強力な影響によって説明できる。

9. 経済成長は人類の歴史の大半を通じてほぼゼロだった。人口動態を経済成長と組み合わせれば、古代から17世紀までの長い間、年間経済成長率は0.1-0.2%以下だった。資本収益率がそれより高かったことは確かで、年間資本収益率の長期的中央地は4-5%だ。

10. 資本収益率とグローバルな経済成長率の差は、グローバル経済成長率が3.5-4%だった20世紀後半の50年間に大きく縮小した。

11. そして、21世紀には経済成長の鈍化につれて、ほぼ確実にその差は再び広がったはずだ。

12. 20世紀には財政的、非財政的ショックの両方により、歴史上初めて純粋な資本収益率が経済成長率よりも低いという事態が生まれた、それがほぼ1世紀近く続いた。しかし、この事態は終わりに近づいている。国家間の税制競争がその論理的帰結にまで進むなら、rとgの差は21世紀のどこかの時点で19世紀に近い水準に戻るだろう。

13. もし、平均資本税率が30%程度のままであれば純粋な資本収益率はたぶん経済成長率よりもずっと高い水準になるだろう。

14. r>gという不等式はある条件下での歴史的主張。イノベーション等により生産性向上が急激に進んだら、経済成長率は資本成長率よりも際立って高くなってもおかしくない。

15. 一般的に4-5%という資本収益率の相対的安定性は時間選好という概念に基づく。成長率ゼロの経済では、資本収益率は時間選好ゼロと必ず一致する。資本収益率が4-5%で歴史的に安定しているのは最終的には心理的理由。この収益率は平均的な人の性急さと未来に対する態度を反映している。

16. このように行動と未来に対する態度を一つのパラメーターに要約するのは不可能だ。これらの選択は、時間選好だけではなく、予防的貯蓄、ライフサイクルの影響、富そのものに付随する重要性等多くの要素を含んでいる。

17. つまりr>gという不等式は、絶対的な論理的必然ではなく、さまざまなメカニズムによって決まる歴史的現実として分析する必要がある。

18. 裕福な人の資産が平均所得よりも急速に増大すると、資本/所得比率は無制限に上がり続け、長期的にはそれで資本収益率は低下する。しかし、このメカニズムが働くには数十年かかるし、19世紀と第一次大戦前夜のイギリス、フランスのように裕福な人が外国資産も蓄積できるような開放経済ではなおさらだ。

19. 相続制度が長子相続制から兄弟姉妹間の均等分割性に変わると資産は世代を経るごとに減るはず。ところがそうなっていない。

20. 資本収益率が成長率を大きく上回ると、富の蓄積と移動の動学によって分配は自動的に極度に集中へと向かい、兄弟姉妹間の平等な分かち合いがそれほど関係なくなってしまう。

21. もし、資本収益率と経済成長率の差が19世紀フランスで見られたほど高ければ、富の累積動学によって自動的に富は極度に集中し、通常トップ十分位がションの90%程度、トップ百分位が50%を所有すると予見される。

22. つまり、基本不等式r>gによって、19世紀に見られた高水準の資本格差、ひいてはある意味でのフランス革命の不成功を説明できる。

23. 兄弟姉妹間の資産均等分配はいくらか影響があったが、r>gほどの差はなかった。

24. 理論モデルによると資本収益率が5%前後なら、成長率が1.5-2%を超えるか、資本課税によって純収益率が3-3.5%に下がるか、その両方が怒らない限り、資本集中の均衡値はあまり下がらない。

25. もしも差r-gがある閾値を超えるともはや分配は均衡しない。富の格差は限りなく増大し、分配の最高値と平均値の差は無限に大きくなる。

26. この閾値の正確な水準は貯蓄行動次第だ。とても裕福な人々にお金の使い道がなく、資本ストックとして貯蓄し、それを増やす以外に選択肢がなければ、格差の拡大はもっと起きやすくなる。

27. 最終的には貯蓄を投資する対象が無くなり、グローバルな資本収益率は下落し、いずれ分配均衡が現れる。しかし、それにはとても長い時間が必要だ。

28. 現在でもかつてもパレートのように富の分配がまるで何かの自然法則であるかのように盤石だと想像する人々もいる。現実にはとんでもない話だ。歴史的視野で格差を研究する時、重要なことは分布の安定性ではなく、その時々起きている重要な変化だ。

29. なぜ富の格差がベル・エポック期に到達した水準に戻っていないのか。残念ながらこの問いに対する決定的で満足な答えを持ってはいない。

30. 1914-1945年のショックに続いて富の格差が大幅に縮小したのはわかりやすい。トップ階層の持つほとんどの富はそのずっと以前に蓄積した者なので、そのような大きな財産を復活させるには穏当な財産蓄積よりもずっと時間がかかる。

31. 資本蓄積が何世代にもわたる長期的プロセスだという認識は重要。言い換えると今日、富が過去ほど不平等に分配されていない理由は、単に1945年以降、まだ十分に時間がたっていないからだ。

32. 1914-1945年の間、広くは20世紀中にどのような構造的変化が起こったせいなのか?最も自然かつ重要な説明としては20世紀の政府が資本と所得に高い税率で課税を始めたことだ。

33. 1900-1910年に見られたとても高い富の集中は、長期間にわたって大きな戦争や大参事がなかった第一次大戦までは資本所得や法人利潤には課税されなかった。課税される場合でも税率は非常に低かった。

34. 資本所得に対する課税の効力は、資産の総蓄積を減らすのではなく、長期的な富の分配構造を変えるということがある。総資本ストックは変化しなくても、トップ百分位の富のシェアの減少が中流階級の台頭によって相殺されるということ。

35. 1914-1945年の戦争による経済的、政治的ショックに続いて多くの富裕国で課せられた20-30%かそれ以上の税率となると影響力がまるで違う。そのような課税の結果、家族資産を平均所得の上昇よりも早く増やすには代々続く世代が出費を減らし、貯蓄を増やす必要があった。

36. 簡単なシミュレーションをすれば、累進相続税が長期的にはトップ百分位の富のシェアを大きく減少させるのが分かる。税制だけで多くの変遷を説明できる。

37. 税制の変化とは別に二つの要素が重要な役割を果たしている。

38. 一つは、所得に占める資本所得の割合や資本収益率が長い目で見るとわずかに下がっているらしいこと。もう一つは経済成長率が18世紀までの極端に低かった値に比べれば大きいままだということ。

39. つまり、富の集中はたとえ資本に対する課税が無くなっても1900-1910年の極端なレベルに戻るとは限らないということ。

40. 今日のヨーロッパではベル・エポック期に比べ、富の集中が目に見えて減っている事実は、偶発的出来事(1914-1945年のショック)と課税制度がもたらした結果。これらの制度が破壊されるともっと高い富の格差が生じかねないリスクがある。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.08.07更新

第9章 労働所得の格差

1. 労働所得の格差の原因として最も広く受け入れられているのは教育と技術の競争によるというもの。しかし、この理論では1980年以降の米国のスーパー経営者の台頭について説明できない。

2. この理論は二つの仮説に基づく。一つは労働者の賃金はその人の限界生産力、つまり生産高に対する個人の貢献に等しいという仮説。もう一つは、労働者の生産力はその人の技能と社会におけるその技能に対する需給によって決まるという仮説。

3. 技能の需要と供給。技能の供給は教育システムに左右される。技能の受容は社会が消費する財・サービスを生み出せる技術の状態に左右される。

4. 技能の供給が技術からのニーズと同じペースで増大しないと、訓練不十分なグループの稼ぎは減り、安い職種へ追いやられ、労働に関する格差は増大する。これを避けるには新しいタイプの教育訓練の供給、それによる新しい技能の産出量を十分に速いペースで増やす必要がある。

5. 長い目で見れば労働に関する格差を減らす最良の方法は労働力の平均生産性と経済全般の成長率をあげる方法と同じで、教育への投資であるのは間違いない。もしも賃金の購買力が1世紀で5倍に増えたなら、それは技術的進歩に加えて、労働力の技能向上によって1人当たりの生産性が5倍になったためだ。長い目で見ると教育と技術が賃金水準の極めて重要な決定要因だ。

6. しかし、労働者の賃金は常にその人の限界生産力、つまり技能で完全に決まるという考え方は各種の面で限界がある。教育への投資だけでは必ずしも十分ではない。既存技術では利用可能な技能を生かし切れないこともあるからだ。

7. ただし、すべての人間社会で保健医療と教育には本質的な価値がある。現代の発展の特徴の一つとして、産出と雇用の両方において教育、文化、医療に充てられるシェアがかなり大きいことは指摘できる。

8. 最低賃金が賃金格差の形成と変遷に重要な役割を果たしているのは間違いない。最低賃金については各国独自の歴史がある。

9. そもそも最低賃金と硬直的賃金体系はなぜ正当化されるか?労働者の限界生産性を測定することは難しい。

10. 企業にとって賃金が比較的安定していて売上の変動で絶えず変わったりしない方が効率が良い。雇用契約の一部として労働者に月給を保証することで、一種の「賃金保険」を与えると皆の利益になる。賃金の日払いから月払いへの変更は革新的イノベーションであり、20世紀を通じてすべての先進国に定着していった。

11. 長い目で見て賃金をあげて賃金格差を減らす最善の方法は教育と技術への投資だ。

12. しかし、限界生産性、教育と技術の競争という理論の不都合は1980年以降の米国に見られる超高額労働所得を説明できないことにある。

13. 能力と生産性という客観的評価に基づいた理論が正しいなら、現実に見られるようなきわめて差の大きい増え方ではなく、トップ十分位内でだいたい同じくらいのチンが下がみられるはず。

14. 要するに、ここ数十年で二つの違う現象が作用していた。まずは大卒と高卒以下の所得格差の増大。そして大卒の中でもエリート校で何年も学び続けた人だけに見られる報酬の急激な上昇だ。

15. 超高給の急上昇が起きているのはいくつかの先進国だけで、それ以外では起こっていないということだ。

16. 所得階層の上に行けばいくほど報酬増大は顕著になる。なぜそれほどの高水準の報酬が正当化されるのか?

17. 米国トップ千分位はここ数十年でシェアを2%から10%近くまで伸ばした。フランスと日本は、1.5%から2.5%近くまで増えている。

18. 人口の0.1%が国民所得の2%以上を占めるということは、国平均の20倍以上の高所得を享受しているということだ。

19. 全ての富裕国において1990年から2010年にかけて平均的個人の購買力が沈滞していたのに対し、上位0.1%は購買力の著しい増加を享受したということだ。

20. 超高所得の激増は大陸ヨーロッパと日本ではそれほど顕著ではない。しかし、10年、20年遅れがあるとはいえ、米国、イギリス、カナダのように顕著な格差の方向に動いている。

21. 富裕世界における超高所得層の増加の傾向の地域差は印象的。それが技術変化の影響とは異なることを示している。

22. 富裕国間での所得分配の推移の違いの理由の説明が必要だ。

23. トップの稼ぎ手の大半は大企業の経営者。店員や行員の仕事は限界生産を概算できる。しかし、個人の職務が完全にその企業固有のものであったり、それに近かったりする場合には誤差の範囲はずっと大きくなる。不完全情報仮説を標準的な経済モデルに取り入れると「個人の限界生産性」という概念そのものの定義が難しくなる。それどころか高い所得層を正当化する理由をでっちあげるための純粋なイデオロギー的構築物に近いものになる。

24. 実際に報酬はどう決まるのか?企業の生産高に対する書く管理職の貢献を正確に見積もることは不可能なため、このプロセスの決定が極めて恣意的で、上下関係と関係者個人の総体的交渉力に大きく左右されるのは避けがたい。自分の給与を自分で決める立場の人は、自分自身に対して甘くなる。

25. 役員報酬が最も急上昇するのは売上と利潤が外部要因で増えた時。特に米国企業でこれが顕著。この現象を「ツキに対する報酬」と呼ぶ。

 

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2017.08.07更新

第8章 二つの世界

1. 第一に、フランスではベル・エポック期以来所得格差が大幅に縮小した。

2. 第二に、20世紀を通じた所得格差の大幅な縮小は、ほぼ最上位の資本所得の減少だけによる。

3. つまり、20世紀フランスにおける所得格差の減少は、不労所得生活者の減少、高額資本所得の崩壊でほぼ説明できる。

4. 格差の歴史とは、激動の社会変化の影響を受け、経済的要素以外に、無数の格差、政治、軍事、文化現象に突き動かされた。

5. 富の分配の歴史は、もっと大きな国の歴史を解釈するための手段となる。

6. 20世紀に格差を大幅に縮小させたのは、戦争の混沌とそれに伴う経済的、政治的ショック。‥‥二度の世界大戦による破壊、大恐慌が引き起こした破産、何よりもこの時期に成立した公共政策のショック。

7. 1914年から1945年にかけて資本/所得比率は激減し、資本所得が国民所得に占めるシェアも大幅に下落した。

8. 相当長期間にわたり不労所得生活者社会から経営者社会へと移行してきた。スーパー不労所得生活者の社会から、仕事による成功と資本による成功のバランスがよくなった。

9. フランスで起きたのは、不労所得生活者が没落して経営者より下に下がったということ。

10. 所得階層のトップ十分位は、すべて経営者の世界だ。彼らの所得の80-90%が労働の対価だ。

11. かつて所得階層のトップ層には高校教師や年季の入った小学校教師も入っていた。現在では大学教授・研究者、上級国家公務員にでもならない限りトップ層には入れない。

12. 今や、最も賃金の低い労働者はレストランのウェイター、ウェイトレス、小売店の店員などのサービス業従事者だ。

13. トップ層には医師、弁護士、商人、レストラン経営者などの自営業者も含まれる。これらの仕事に就くのはよい戦略だし、大企業の最高経営者になるのと同じぐらい一般的。ただし、トップ1%に入るにはこうした戦略では不十分。相当の資産を持つ者の方が所得階層の最上位には到達しやすい。

14. トップ十分位は常に二つの違う世界を包含している。労働所得が明らかに優勢な「9%」と、資本所得がだんだん重要になる「1%」だ。この両者の違いは明確だし体系的だ。

15. 「9%」と「1%」が全く違う所得の流れにあることを理解する必要がある。「1%」の所得は資本所得の形で入ってくる。中でも株と債券の利子と配当が大きい。これが経済が崩壊し、利潤が減少、企業が次々と倒産した大恐慌中にトップ百分位のシェアが急減した理由。

16. 「9%」には大恐慌の受益者である管理職が多く含まれている。

17. 両世界大戦の戦時中に賃金階層は狭まったが、それぞれの大戦が終わると賃金格差が大幅に広がった。

18. 戦時中はインフレが起きる。しかし、賃金分布の底辺の賃金は一般的に増加し、上位日比べると保護されている。最貧層の購買力低下を防ぐ努力がはらわれる一方、裕福な人たちは戦争が終わるまで需要を我慢してくれと言われるからだ。インフレ率が高いと賃金分配に重要な変化を呼び起こす。

19. フランスの格差の歴史の三つの局面。1945-1967年にかけて格差拡大。1968-1983年にかけてかなり減少。1983年以降、格差は徐々に拡大し、2000-2010年にかけてトップ十分位のシェアは33%にまで増大した。

20. 1966-1967年の利潤シェアは歴史的に見ても高いが、それは第二次大戦の終結とともに始まった資本分配率の回復の結果。

21. 1990年代フランスの驚くべき新現象。トップ層の給与、特に最大手企業と金融会社の重役に与えられる報酬パッケージが驚くほどの高額に達した。

22. 極めて低い経済成長と、大多数の労働者の購買力の実質的停滞の文脈の中でトップの稼ぎ手たちの購買力は激増した。

23. 米国が際立つのはここ数十年でスーパー経営者というサブグループが最初に出現したこと。

24. 20世紀初頭、ヨーロッパの所得格差は米国よりかなり大きかった。

25. フランス、イギリスに比べ、米国の方がいくらか資本分配の格差は少なかった。不労所得者数は少なかった。

26. しかし、1920年代の米国で所得格差はかなり急激に拡大し、1929年の暴落前夜におけるピーク時点では、トップ十分位に国民所得の50%以上が渡っていた。

27. 米国に大打撃を与えた大恐慌期と第二次大戦中は所得格差はかなり縮小した。

28. 米国での格差は1950-1980年の間に最も小さくなった。

29. しかし、1980年以降、米国の所得格差は急上昇した。トップ百分位のシェアは1970年代の国民所得の30-35%から2000年代には45-50%にまで増えた。

30. 米国のトップ十分位のシェアは1980年代に35%越え、1990年代に40%越え、2000年代に45%に達した。

31. 1980年代以降、米国のトップ社会集団が米国経済の平均成長率よりかなり高い所得成長を経験した。

32. 金融危機そのものは格差の構造的拡大には影響しなかった。

33. 米国での格差拡大は賃金格差が前代未聞の拡大を遂げた結果。特に、賃金階層の頂点、中でも大企業の重役たちがすさまじく高額の報酬を受け取るようになったせいが大きい。

34. 1980年以降増え続けた資本所得格差も相当なもので、米国の所得格差の約3分の1を占めている。米国ではフランスやヨーロッパ同様、今も昔も所得階層の上に行くほど資本所得の重要性が高まる。

35. 最も重要なことは、非常に高い所得と非常に高い給与の増加がスーパー経営者の出現によるものだということ。スーパー経営者とは大企業の重役で、自分の仕事の対価として非常に高額の、歴史的に見て前例のない報酬を得る人々。

36. 米国における新たな格差はスーパースターよりもスーパー経営者の出現の方が関係がより深い。

 

 

 

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2017.08.07更新

第7章 格差と集中 -予備的な見通し

1. 二つの大戦とそれに続く公共政策が20世紀における格差縮小に中心的役割を果たした。しかし、1970年代、80年代以降、格差が再び急速に拡大したが、そこには国ごとに大きな違いがある。

2. 19世紀フランスにおける所得と富の格差は極めて大きかった。

3. 第二次大戦後の数十年では、相続財産がその重要性をほとんど失い、歴史上でおそらく初めて労働と勤勉がトップに上り詰めるための最も確実なルートとなった。

4. 所得は常に労働所得と資本所得の和となる。所得格差はこの二要素を合計した結果生まれる。この二要素が不平等に分配されればそれだけ全体の格差が大きくなる。

5. 大きな財産を持つ個人が中小規模の財産を持つ人々よりも何らかの理由で高い収益率を得られるなら、資本所得の格差が資本そのものの格差よりも大きくなる。

6. 資本所得格差の場合、最も重要な過程として挙がるのは、貯蓄と投資活動、贈与と相続を管理する法律、不動産と金融市場の働き。

7. 労働所得分布の上位10%が全労働所得の25―30%を稼ぐ。資本所得分布の上位10%が常に全ての富の50%以上を所有する。

8. 資本に関する格差は常に極端だ。

9. 短期間に賃金が大きく変動する世界だと富を蓄積する主な理由は「予防」(所得への負のショックに備えた備蓄)。この場合、富の格差は賃金格差より小さくなる。富の格差は恒久的な賃金所得格差と同程度となり、瞬間的な賃金格差よりはかなり小さくなる。しかし、これは実世界にはあてはまらない。富の格差は常に労働所得格差よりも大きい。

10. ライフサイクル貯蓄(老後の蓄え等)では現実に見られる資本所有権の極端な集中は説明できない。世代間闘争が階級闘争にとってかわったわけでもない。極度の資本集中は主に相続財産の重要性とその累積効果で説明できる。

11. 1789年のフランスだろうと2011年の米国だろうと、どんな社会でもトップ百分位は社会の様相と政治経済秩序の両方に大きな影響を与え得る規模を持つグループ。

12. 資本所有の分配はどこでも極端に不平等。富が最も平等に分配されている社会では、最も富裕な10%が国富の50%を持っている。2010年代初期の現在では、ほとんどのヨーロッパ諸国では、最も裕福な10%が国富のおよそ60%を所有している。

13. 最も富裕な10%は社会の平均財産の6倍を所有していることになる。

14. トップ十分位のほとんど全員が持家だが、不動産の重要性は富の階層をあがると激減する。住宅は中流階級と小金持ちに人気の投資だが、本当の富は常に金融、事業資産が主体。

15. 真の「世襲中流階級」の台頭は20世紀の先進国における富の分配で重要な構造変化だった。

16. 20世紀初頭では中流階級は存在しなかった。国民の大半が実質的に何も所有しない7一方、社会資産の大半を少数が所有していた。

17. 資産を持つ中流階級の台頭に伴い、上位百分位の富の占有率は半分以下に急減。20世紀初頭に50%以上あったものが、21世紀初めには20-25%にまで減少した。

18. 総所得、つまり労働と資本による所得合計の格差についていえば、トップ十分位が国富の50%を得ている(約20%をトップ百分位が得る)。これはベル・エポック期、アンシャン・レジーム期のフランスやイギリス、現在の米国に当てはまる。

19. 富の集中がさらに大きい社会はありうるか?たぶんムリ。もしもトップ十分位が毎年総生産の90%を独占すると、おそらく革命が起きる。

20. 重要なのは格差の大きさそのものではなく、格差が正当化されるかということ。

21. 「超世襲社会」では、総所得のヒエラルキーは大きな資本所得、とりわけ相続財産による所得に支配されている。

22. 高水準の格差が達成される二つ目の方法は比較的新しい。それはここ数十年、主に米国で生み出された。総所得の極端な格差は「超能力主義社会」の結果だ。これを「スーパースターの社会」と呼んでも良い。

23. 二種類の格差は共存可能。一人の人間がスーパー経営者と不労所得生活者を兼ねていけない理由などない。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.08.04更新

第6章 21世紀における資本と労働の分配

1. 長い目で見た場合、資本/所得比率は貯蓄率sと成長率gに左右される。

2. α=γ×βなら、たとえば資本ストックが国民所得6年分(β=6)、資本の平均収益率が年間5%の場合、国民所得に資本所得が占める比率αは30%になる。(=労働所得比率は70%)

3. イギリス、フランスでは18世紀後半から19世紀を通じて所得の資本分配率は約35-40%、20世紀半ばに20-25%に下がったが、20世紀後半から21世紀前半は25-30%に伸びている。

4. 上記の動きは資本の平均収益率に対応。資本の平均収益率は18、19世紀には約5-6%で、20世紀半ばに7-8%に上昇。その後、20世紀後半から21世紀前半に4-5%に下がっている。

5. 資本の収益率は資産によってまちまち。産業資本などは7-8%、18-19世紀の農地は4-5%、21世紀の不動産は3-4%、預金の実質利回りは1-2%程度以下。

6. 個人事業などの非賃金労働者の所得は「混合」所得と呼ぶ。労働所得と資本所得の混合だから。また、「起業所得」とも呼ばれる。

7. フランス、イギリス共に18-21世紀にかけて、純粋資本収益率は中央値にして年間4-5%、一般的には年間3-6%の間をウロウロしてきた。

8. 18、19世紀はしばしば4-5%を超えたらしいが、21世紀前半は資本/所得比率が過去に到達しなかった高水準を回復する中で、資本の純粋収益率は3-4%に近づきつつある。

9. 18、19世紀では最も普遍的でリスクの少ない資本(土地・国債)の収益率は年5%だった。その意味で土地と国債はほぼ完ぺきな代替品だった。

10. なぜ長年の間に資本収益率が4-5%から3-4%に低下したか?この問いに答える前に三つの点を整理する。

11. その1、税負担は20世紀に激増した。18、19世紀は税負担はないに等しかった。平均税率は現在の富裕国では平均約30%。これが主な理由となり資本による純粋な収益率と所有者個人に実際にもたらされる収益率に大きな差が生じている。

12. その2、約3-4%の純粋収益率は平均であり、その背後には莫大な収益率の幅が隠れている。

13. その3、上記に示された収益率は実質収益率。インフレ率は織り込み済み。

14. 両大戦後、インフレが富裕国では公的債務の価値を実質的に帳消しにする重要な役割を担った。だがインフレが相当期間にわたって高水準にとどまるのであれば、投資家たちは実体資産への投資で身を守ろうとする。

15. インフレが平均資本収益率に及ぼす潜在的影響はごく限られている。見かけ上の名目効果よりもはるかに小さい。

16. 資本の収益率を決めるのは第一に技術、第二に資本ストックだ。

17. 資本は二つの経済的機能を果たす。一つは住居の提供、もう一つは生産要素になること。

18. 資本の限界生産性―投資家は資本の最も有効な用途を見つけるのが仕事。資本市場が完全であれば、資本の各単位を可能な限り最も生産的な方法で投資させるだろう。

19. 実際には金融機関と株式市場はたいていこの完璧な理想からほど遠い存在だ。それが慢性的な不安定さ、投機の波、バブルをもたらしている。

20. 過剰な資本は資本収益率を減らす。資本ストックが増加すると、資本の限界生産性は当然下がるはずだ。限界生産性は量がある閾値を超えると減少する。

21. 特に重要なのは資本/所得比率βが増加する時、資本収益率γがどれくらい下がるかという問題。

22. 低下の可能性は二つ。

23. ①資本/所得比率βの増加の反比例より資本γの収益の減少が大きい場合、資本収益率の低下はβの上昇を相殺して余りあるものになる。

24. ②βの増加に反比例するほどγが低下しない場合、資本シェアはβの増加にともなって増加する。

25. 英、仏の歴史的推移では②が長期的に意味を持つようだ。

26. 生産関数などの問題より、有意義な意味を持つ問題は労働と資本の代替弾力性が1より大きいか小さいかだ。

27. 代替弾力性がちょうど1に等しい例は、コブ・ダグラス型生産。生産関数とは生産物の最大可能な産出量を生産要素の投入量に対応して表す関数のこと。

28. コブ・ダグラス型生産関数は第二次大戦後、経済学の教科書で非常に人気が出た。資本と労働の分配率の安定が平和で調和のとれた社会秩序感をもたらすとされたのが人気の原因。

29. しかし、所得の資本シェアの安定性は実際にはまるで調和を保証しない。一般に信じられているのとは裏腹に国民所得の資本シェアの安定性は資本/所得比率の安定性をまるで意味しない。

30. コブ・ダグラス型生産関数の不適切さ。超長期で見ると資本と労働の代替弾力性は1より大きかったらしい。資本/所得比率βの増加は国民所得の資本シェアαの微増につながった。

31. 1970-2010年には資本/所得比率が上昇したという意味では所得の資本シェアはほとんどの富裕国で増加。

32. 伝統的農業社会(資本が主に土地である農業が基盤)では、弾性値が1よりかなり小さい。どんな形の資本でもある点を超えると価格効果が数量効果を上回る。

33. 人的資本が重要性を増しているように見える。技術の変化によって労働要素の重要性が増したということ。実際、超長期で見ると所得の資本シェアが減少しているのでそう解釈できる。だが、今後数十年の推移を見なければ確かなことは言えない。

34. 現代技術はいまだに大量の資本を利用している。資本には多くの用途があり、収益をゼロにすることなく莫大な量を蓄積できる。このような状況下では労働にとって多少都合の良い方向に技術が変化したとしても、超長期的な資本シェアが減少するとは限らない。

35. 資本と労働の分配は短期的・中期的には頻繁に変化している。

36. 現在では長期的構造成長は生産性の成長がないと無理だとわかっている。

37. β=s/g の法則が明示しているように生産性と人口の永久的な成長のみが永続的に追加される新たな資本と釣り合いをとれる。

38. 資本/所得比率には、長期的に見ると比較的柔軟性がある。

39. 1956年に提唱されたソローのいわゆる新古典派成長モデルがはっきり勝利したのは1970年代。

40. ソローとサミュエルソンは成長プロセスは短期的に不安定であり、マクロ経済的安定にはケインズ流の政策が必要だと確信しており、β=s/gを長期的法則としか見なしていなかった。

41. β=s/gの法則は国や時代ごとに資本/所得比率に大きな差が生じることを否定するものではない。

42. ヨーロッパでは現在、資本/所得比率は、すでに国民所得およそ5-6年分に上昇しており、これは18世紀、19世紀、第一次大戦直前まで観測されていた水準にほぼ等しい。

43. 超長期で見ると、技術変化が資本よりも人間の労働にわずかに有利に働く可能性があり、そうなれば資本収益率と資本シェアは低下する。しかし、この長期的効果には限界があり、逆方向に向かう他の力にかき消されてしまう可能性がある。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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