浅沼宏和ブログ

2017.08.07更新

第8章 二つの世界

1. 第一に、フランスではベル・エポック期以来所得格差が大幅に縮小した。

2. 第二に、20世紀を通じた所得格差の大幅な縮小は、ほぼ最上位の資本所得の減少だけによる。

3. つまり、20世紀フランスにおける所得格差の減少は、不労所得生活者の減少、高額資本所得の崩壊でほぼ説明できる。

4. 格差の歴史とは、激動の社会変化の影響を受け、経済的要素以外に、無数の格差、政治、軍事、文化現象に突き動かされた。

5. 富の分配の歴史は、もっと大きな国の歴史を解釈するための手段となる。

6. 20世紀に格差を大幅に縮小させたのは、戦争の混沌とそれに伴う経済的、政治的ショック。‥‥二度の世界大戦による破壊、大恐慌が引き起こした破産、何よりもこの時期に成立した公共政策のショック。

7. 1914年から1945年にかけて資本/所得比率は激減し、資本所得が国民所得に占めるシェアも大幅に下落した。

8. 相当長期間にわたり不労所得生活者社会から経営者社会へと移行してきた。スーパー不労所得生活者の社会から、仕事による成功と資本による成功のバランスがよくなった。

9. フランスで起きたのは、不労所得生活者が没落して経営者より下に下がったということ。

10. 所得階層のトップ十分位は、すべて経営者の世界だ。彼らの所得の80-90%が労働の対価だ。

11. かつて所得階層のトップ層には高校教師や年季の入った小学校教師も入っていた。現在では大学教授・研究者、上級国家公務員にでもならない限りトップ層には入れない。

12. 今や、最も賃金の低い労働者はレストランのウェイター、ウェイトレス、小売店の店員などのサービス業従事者だ。

13. トップ層には医師、弁護士、商人、レストラン経営者などの自営業者も含まれる。これらの仕事に就くのはよい戦略だし、大企業の最高経営者になるのと同じぐらい一般的。ただし、トップ1%に入るにはこうした戦略では不十分。相当の資産を持つ者の方が所得階層の最上位には到達しやすい。

14. トップ十分位は常に二つの違う世界を包含している。労働所得が明らかに優勢な「9%」と、資本所得がだんだん重要になる「1%」だ。この両者の違いは明確だし体系的だ。

15. 「9%」と「1%」が全く違う所得の流れにあることを理解する必要がある。「1%」の所得は資本所得の形で入ってくる。中でも株と債券の利子と配当が大きい。これが経済が崩壊し、利潤が減少、企業が次々と倒産した大恐慌中にトップ百分位のシェアが急減した理由。

16. 「9%」には大恐慌の受益者である管理職が多く含まれている。

17. 両世界大戦の戦時中に賃金階層は狭まったが、それぞれの大戦が終わると賃金格差が大幅に広がった。

18. 戦時中はインフレが起きる。しかし、賃金分布の底辺の賃金は一般的に増加し、上位日比べると保護されている。最貧層の購買力低下を防ぐ努力がはらわれる一方、裕福な人たちは戦争が終わるまで需要を我慢してくれと言われるからだ。インフレ率が高いと賃金分配に重要な変化を呼び起こす。

19. フランスの格差の歴史の三つの局面。1945-1967年にかけて格差拡大。1968-1983年にかけてかなり減少。1983年以降、格差は徐々に拡大し、2000-2010年にかけてトップ十分位のシェアは33%にまで増大した。

20. 1966-1967年の利潤シェアは歴史的に見ても高いが、それは第二次大戦の終結とともに始まった資本分配率の回復の結果。

21. 1990年代フランスの驚くべき新現象。トップ層の給与、特に最大手企業と金融会社の重役に与えられる報酬パッケージが驚くほどの高額に達した。

22. 極めて低い経済成長と、大多数の労働者の購買力の実質的停滞の文脈の中でトップの稼ぎ手たちの購買力は激増した。

23. 米国が際立つのはここ数十年でスーパー経営者というサブグループが最初に出現したこと。

24. 20世紀初頭、ヨーロッパの所得格差は米国よりかなり大きかった。

25. フランス、イギリスに比べ、米国の方がいくらか資本分配の格差は少なかった。不労所得者数は少なかった。

26. しかし、1920年代の米国で所得格差はかなり急激に拡大し、1929年の暴落前夜におけるピーク時点では、トップ十分位に国民所得の50%以上が渡っていた。

27. 米国に大打撃を与えた大恐慌期と第二次大戦中は所得格差はかなり縮小した。

28. 米国での格差は1950-1980年の間に最も小さくなった。

29. しかし、1980年以降、米国の所得格差は急上昇した。トップ百分位のシェアは1970年代の国民所得の30-35%から2000年代には45-50%にまで増えた。

30. 米国のトップ十分位のシェアは1980年代に35%越え、1990年代に40%越え、2000年代に45%に達した。

31. 1980年代以降、米国のトップ社会集団が米国経済の平均成長率よりかなり高い所得成長を経験した。

32. 金融危機そのものは格差の構造的拡大には影響しなかった。

33. 米国での格差拡大は賃金格差が前代未聞の拡大を遂げた結果。特に、賃金階層の頂点、中でも大企業の重役たちがすさまじく高額の報酬を受け取るようになったせいが大きい。

34. 1980年以降増え続けた資本所得格差も相当なもので、米国の所得格差の約3分の1を占めている。米国ではフランスやヨーロッパ同様、今も昔も所得階層の上に行くほど資本所得の重要性が高まる。

35. 最も重要なことは、非常に高い所得と非常に高い給与の増加がスーパー経営者の出現によるものだということ。スーパー経営者とは大企業の重役で、自分の仕事の対価として非常に高額の、歴史的に見て前例のない報酬を得る人々。

36. 米国における新たな格差はスーパースターよりもスーパー経営者の出現の方が関係がより深い。

 

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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