浅沼宏和ブログ

2017.08.08更新

第12章 21世紀における世界的な富の格差

1. 金融グローバル化の力がかつてないほど大きな資本の集中を招く可能性はあるだろうか?

2. 多く経済モデルは資本収益率がその人の富の大小にかかわらず等しいと想定する。しかし、そうではない。

3. 理由1、財力が大きければアドバイザーなどを雇うことができる。理由2、財力が大きければ、たやすくリスクを取ったり、気長に待ったりできる。

4. 平均資本収益率が4%の場合、裕福な人たちの収益率が6、7%で、裕福でない人たちは2、3%の低い収益率に甘んじるしかないことは十分ありうる。

5. 世界の富の階層トップ十分位、百分位の富が構造的な理由で下の階層よりも急速に成長するのなら、富の格差は際限なく広がりやすい。

6. 巨額の財産は数十年のうちに極端な水準に達する可能性がある。不均等な資本収益率は不等式r>gの影響を大きく増幅し、悪化させる格差拡大の力だ。

7. これに対する唯一自然な拮抗力は成長だ。世界の経済成長率が高い場合、巨額の財産の相対的成長率はゆるやかなままとなる。

8. 長い目で見ると貧困国が富裕国に追いついて世界の成長率が緩やかになった場合、資本収益の格差の方がはるかに大きな懸念事項になりえる。長期的には国内の富の格差は国家間の富の格差より確実に厄介だ。

9. 経済紙『フォーブス』の世界富豪ランキングによると、1987年に億万長者は140人超いたが、2013年ではそれが1400人超と10倍に増加した。

10. 1980年代以来、世界の富は平均して所得より少し速めに増加しており、最大の富は平均資産よりはるかに急速に増加している。

11. トップ千分位が世界の富の約20%、トップ百分位が約50%、トップ十分位がおよそ80-90%を所有しているようだ。つまり世界の富の分布構造の下半分が所有しているのは、どう見ても世界の富の総額の5%未満でしかない。

12. 世界的な富の階層の上部間で見られる格差拡大の力はすでに非常に強力になっている。

13. 富の階層の上部で働く格差拡大の力は世界的なキャッチアップと収斂の力を上回り、トップ十分位、百分位のシェアは大きく増加し、中産階級と上位中産階級から超富裕層への再分配が大幅に増加している。

14. 累進資本税のみがこのような動学を効果的に阻止できる。

15. ひとたび築かれた財産は、資本の動学に従って増加し、ただその規模ゆえに数十年にわたって急速度で増加を続けられる。

16. トップレベルの企業家の場合、最大の相続財産は同族会社に投資され続けていると想定できる。

17. その下の規模のグループになると多くの相続財産が分散型ポートフォリオとして所有されている可能性が高く、そうなるとジャーナリストたちにはなかなか見つけられなくなる。

18. 資本収益は、本当に起業家的な労働、まったくの運、明白な窃盗の要素が分かちがたく結びついたものというのが実情。富の蓄積の恣意性は相続の恣意性よりもっと幅広い現象。

19. 大学の基金も10年、20年、30年の平均で見ると億万長者と同じように極めて高い収益をあげてきた。収益は基金の規模に応じて急増してきたと言える。大学基金の例は、大規模な初期所有財産がすぐれた収益をもたらし、それが資本収益にどれほど大きな格差をもたらすかをハッキリ具体的に示すもの。

20. ささやかな規模の格差r-gがあれば、極めて不平等な富の分布にたどり着く。

21. さらに重要なのは富裕層が常に益々高度な新しい法制度を持ち出して、資産保護にあたっていること。信託基金、財団などはしばしば税金逃れに使われる。

22. 財団は設立者一族の私的な目的と慈善目的の両方に使われることが多く、基本的には慈善目的の財団であっても、たいてい資産の支配権は慎重に維持されている。重要な点は非公開の法的文書にしばしば隠されている。

23. インフレ率が高まると資本収益にどんな影響が出るか?資産価格も同等に増加すると考えられる一方で、インフレ率が市民の平均収益の分布を変える可能性もある。実際にはインフレが引き起こす再分配は常に複雑かつ多元的で、ほぼ予測不能でコントロールできないという問題がある。

24. インフレは有閑階級に対する税、もっと正確には投資されていない財産に対する税と言える。しかし、インフレの影響を免れるには実物資産(不動産や株)に投資するだけで良い。

25. インフレの主な影響は資本の平均収益を減らすことではなく、それを再分配することにある。

26. しかし、現代のインフレは中央銀行にとって極めて切れ味の悪い道具であるとの認識が必要だ。富の格差を減らす目的であれば、累進資本課税の方が民主的透明性、現実の有効性の両方においてもっと適切な政策だ。

27. 石油輸出国の政府系ファンド(ソヴリン・ウェルス・ファンド)が成長している。ファンドを通じた石油輸出国による投資の問題は富裕国でますます顕著になりつつある。

28. ソヴリン・ウェルス・ファンドはファンド収益の再投資だけではなく、石油販売の利益の一部も投資して成長している点に特徴がある。現在、ファンドは世界の総民間財産のおよそ1.5%を所有しているが、2030-2040年には世界の資産に占めるシェアが少なくとも現在の2―3倍大きくなることはほぼ確実。

29. 中国など石油輸出のない新興国が急速に成長しつつあるのはたしかだが、この急成長は生産性と生活水準が先進国に追いつくと終わることが実証されている。知識と生産技術の普及は根本的に均等化のプロセスで、比較的遅れている国々がもっと先進的な国々に追いつくと急成長は止まってしまう。

30. 21世紀を通じてアフリカの資本/所得比率は他の大陸より低いと予測されている。資本が自由に国境を越えて流入できる場合、他国、特に中国などアジア諸国からアフリカへの投資フローが増えると予測される。これが深刻な緊張をもたらす可能性があり、その兆候はすでに顕在化している。

31. 格差拡大については産油国の影響の方が中国などの影響よりはるかに大きい。現在広まっている中国に所有されつつあるという恐怖は全くの幻想に過ぎない。富裕国は自分で思っているより実際ははるかに裕福なのだ。

32. フランス国民の多くはパリの不動産価格が高騰しているのは、外国の富裕層による買い占めのせいだと信じている。しかし、現在高騰している不動産価格の97%は物件に大金を払う余裕があるフランス在住フランス人の買い手が十分にいるせいだ。

33. ヨーロッパの住民の大部分にはヨーロッパの世帯が中国の20倍の資本を所有していることはかなり理解しづらいだろう。

34. もう一つ重要なのは、世界の金融資産の大部分がさまざまなタックス・ヘイブンに隠されていて、世界的な富の地理的分布の分析に限界をもたらしている点だ。

35. 報告されていない巨額の金融資産がタックス・ヘイブンに存在している。この金額は世界のGDPのおよそ10%に相当するという推計もある。

36. 富裕国の最も富裕な住民たちが資産をタックス・ヘイブンに隠しているため、富裕国が貧困国に対して持つポジションの実態が覆い隠されている。

 

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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