浅沼宏和ブログ

2017.08.04更新

第6章 21世紀における資本と労働の分配

1. 長い目で見た場合、資本/所得比率は貯蓄率sと成長率gに左右される。

2. α=γ×βなら、たとえば資本ストックが国民所得6年分(β=6)、資本の平均収益率が年間5%の場合、国民所得に資本所得が占める比率αは30%になる。(=労働所得比率は70%)

3. イギリス、フランスでは18世紀後半から19世紀を通じて所得の資本分配率は約35-40%、20世紀半ばに20-25%に下がったが、20世紀後半から21世紀前半は25-30%に伸びている。

4. 上記の動きは資本の平均収益率に対応。資本の平均収益率は18、19世紀には約5-6%で、20世紀半ばに7-8%に上昇。その後、20世紀後半から21世紀前半に4-5%に下がっている。

5. 資本の収益率は資産によってまちまち。産業資本などは7-8%、18-19世紀の農地は4-5%、21世紀の不動産は3-4%、預金の実質利回りは1-2%程度以下。

6. 個人事業などの非賃金労働者の所得は「混合」所得と呼ぶ。労働所得と資本所得の混合だから。また、「起業所得」とも呼ばれる。

7. フランス、イギリス共に18-21世紀にかけて、純粋資本収益率は中央値にして年間4-5%、一般的には年間3-6%の間をウロウロしてきた。

8. 18、19世紀はしばしば4-5%を超えたらしいが、21世紀前半は資本/所得比率が過去に到達しなかった高水準を回復する中で、資本の純粋収益率は3-4%に近づきつつある。

9. 18、19世紀では最も普遍的でリスクの少ない資本(土地・国債)の収益率は年5%だった。その意味で土地と国債はほぼ完ぺきな代替品だった。

10. なぜ長年の間に資本収益率が4-5%から3-4%に低下したか?この問いに答える前に三つの点を整理する。

11. その1、税負担は20世紀に激増した。18、19世紀は税負担はないに等しかった。平均税率は現在の富裕国では平均約30%。これが主な理由となり資本による純粋な収益率と所有者個人に実際にもたらされる収益率に大きな差が生じている。

12. その2、約3-4%の純粋収益率は平均であり、その背後には莫大な収益率の幅が隠れている。

13. その3、上記に示された収益率は実質収益率。インフレ率は織り込み済み。

14. 両大戦後、インフレが富裕国では公的債務の価値を実質的に帳消しにする重要な役割を担った。だがインフレが相当期間にわたって高水準にとどまるのであれば、投資家たちは実体資産への投資で身を守ろうとする。

15. インフレが平均資本収益率に及ぼす潜在的影響はごく限られている。見かけ上の名目効果よりもはるかに小さい。

16. 資本の収益率を決めるのは第一に技術、第二に資本ストックだ。

17. 資本は二つの経済的機能を果たす。一つは住居の提供、もう一つは生産要素になること。

18. 資本の限界生産性―投資家は資本の最も有効な用途を見つけるのが仕事。資本市場が完全であれば、資本の各単位を可能な限り最も生産的な方法で投資させるだろう。

19. 実際には金融機関と株式市場はたいていこの完璧な理想からほど遠い存在だ。それが慢性的な不安定さ、投機の波、バブルをもたらしている。

20. 過剰な資本は資本収益率を減らす。資本ストックが増加すると、資本の限界生産性は当然下がるはずだ。限界生産性は量がある閾値を超えると減少する。

21. 特に重要なのは資本/所得比率βが増加する時、資本収益率γがどれくらい下がるかという問題。

22. 低下の可能性は二つ。

23. ①資本/所得比率βの増加の反比例より資本γの収益の減少が大きい場合、資本収益率の低下はβの上昇を相殺して余りあるものになる。

24. ②βの増加に反比例するほどγが低下しない場合、資本シェアはβの増加にともなって増加する。

25. 英、仏の歴史的推移では②が長期的に意味を持つようだ。

26. 生産関数などの問題より、有意義な意味を持つ問題は労働と資本の代替弾力性が1より大きいか小さいかだ。

27. 代替弾力性がちょうど1に等しい例は、コブ・ダグラス型生産。生産関数とは生産物の最大可能な産出量を生産要素の投入量に対応して表す関数のこと。

28. コブ・ダグラス型生産関数は第二次大戦後、経済学の教科書で非常に人気が出た。資本と労働の分配率の安定が平和で調和のとれた社会秩序感をもたらすとされたのが人気の原因。

29. しかし、所得の資本シェアの安定性は実際にはまるで調和を保証しない。一般に信じられているのとは裏腹に国民所得の資本シェアの安定性は資本/所得比率の安定性をまるで意味しない。

30. コブ・ダグラス型生産関数の不適切さ。超長期で見ると資本と労働の代替弾力性は1より大きかったらしい。資本/所得比率βの増加は国民所得の資本シェアαの微増につながった。

31. 1970-2010年には資本/所得比率が上昇したという意味では所得の資本シェアはほとんどの富裕国で増加。

32. 伝統的農業社会(資本が主に土地である農業が基盤)では、弾性値が1よりかなり小さい。どんな形の資本でもある点を超えると価格効果が数量効果を上回る。

33. 人的資本が重要性を増しているように見える。技術の変化によって労働要素の重要性が増したということ。実際、超長期で見ると所得の資本シェアが減少しているのでそう解釈できる。だが、今後数十年の推移を見なければ確かなことは言えない。

34. 現代技術はいまだに大量の資本を利用している。資本には多くの用途があり、収益をゼロにすることなく莫大な量を蓄積できる。このような状況下では労働にとって多少都合の良い方向に技術が変化したとしても、超長期的な資本シェアが減少するとは限らない。

35. 資本と労働の分配は短期的・中期的には頻繁に変化している。

36. 現在では長期的構造成長は生産性の成長がないと無理だとわかっている。

37. β=s/g の法則が明示しているように生産性と人口の永久的な成長のみが永続的に追加される新たな資本と釣り合いをとれる。

38. 資本/所得比率には、長期的に見ると比較的柔軟性がある。

39. 1956年に提唱されたソローのいわゆる新古典派成長モデルがはっきり勝利したのは1970年代。

40. ソローとサミュエルソンは成長プロセスは短期的に不安定であり、マクロ経済的安定にはケインズ流の政策が必要だと確信しており、β=s/gを長期的法則としか見なしていなかった。

41. β=s/gの法則は国や時代ごとに資本/所得比率に大きな差が生じることを否定するものではない。

42. ヨーロッパでは現在、資本/所得比率は、すでに国民所得およそ5-6年分に上昇しており、これは18世紀、19世紀、第一次大戦直前まで観測されていた水準にほぼ等しい。

43. 超長期で見ると、技術変化が資本よりも人間の労働にわずかに有利に働く可能性があり、そうなれば資本収益率と資本シェアは低下する。しかし、この長期的効果には限界があり、逆方向に向かう他の力にかき消されてしまう可能性がある。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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