浅沼宏和ブログ

2017.08.08更新

第14章 累進所得税再考

1. 課税における20世紀の大イノベーションは累進所得税の考案と発展だ。この制度は20世紀における格差低減に重要な役割を果たしたが、今では国際税制競争により深刻に脅かされている。

2. 課税は技術的問題ではない。何よりも政治哲学の問題であり、あらゆる政治課題の中で最も重要。税金無くして社会は共通の運命を持たず、集合的な行動は不可能だ。あらゆる主要な政治的蜂起の核心には財政革命が存在する。

3. 人は通常、所得課税、資本課税、消費課税の三つに分けて考える。しかし、20世紀には税金の第四の分類が現れた。社会保障拠出金だ。これは所得課税の特別な形態だ。

4. 定義面で重箱の隅をつつくより、もっと有意義な各種税金の特徴づけは、どこまで比例的か累進的かというもの。現代の税制国家では納税総額はおおむねその個人の所得にほぼ比例しており累進的ではない。特に納税総額の大きい国でその傾向がみられる。

5. しかし、累進課税が現代の再分配で限られた役割しか果たさないと結論付けるのは間違い。

6. 1980年以来の米英における所得税率累進性のすさまじい低下は、きわめて高い労働所得の増加の相当部分を説明する。同時に、近年の自由な資本フロー世界における税制競争の台頭により、多くの政府は資本所得を累進所得税から除外した。その結果の一つとして、多くの国で税金は所得階層トップでは逆進的になっている。

7. トップ百分位で見られる明らかな逆進性は、この水準では資本所得が重要になることを反映している。資本所得は累進課税からほとんど除外されている。

8. きわめて富裕な市民への税制上の優遇措置は特に中流階層の不満を呼ぶだろう。

9. システム全体が不公正であるなら、なぜ他人のために支払を続けなければいけないのか?現代の社会国家が存在し続けるためには、その根底にある税制の最小限の累進性を維持するか、少なくともトップ層での逆進性が露骨にならないようにしなければならない。

10. 相続財産の重要性は高まりつつある。現実には遺産は所得よりも税率がずっと低い。

11. つまり累進税性は社会国家の極めて重要な構成要素なのだ。

12. 累進課税は民主主義の産物であると同時に、両大戦の産物でもあることを理解する必要がある。その場しのぎが必要な混沌とした環境で採用されたものであり、各種の狙いはそれほど十分に考え抜かれていない。

13. 20世紀初頭、累進性の原理と全所得への適用に関する国際的なコンセンサスが台頭しつつあった。多くの人にとって公正であり効率性が高いように見えた。全体としての所得でその人の貢献能力を計測できるし、累進課税は産業資本主義がもたらした格差を制限しつつ、私有財産と競争の力を尊重し続ける手法とされた。しかし、累進性の原理そのものを非常に嫌う人も多かった。

14. 1914-1918年のショックが累進的税制への動きをもたらした。第一次大戦までは、課税所得がどんなに高くても税率10%以下でなければ適正な所得税とはいえないというのが先進国すべてに共通の見方だったようだ。

15. 同じことは累進相続税にも当てはまった。相続税率もかなり低いままに保たれていたため、相続財産がほとんど無傷で世代から世代へと引き継がれるのを止めることはできなかった。

16. 20世紀の累進課税の歴史を見るとイギリスと米国が突出して先んじていた。両国では20世紀半ばには最高相続税率70%以上になっていた。こうした政策の狙いは追加の税収にあるのではなく、むしろ巨額の所得や相続財産を無くそうとしたことにある。何らかの理由で、それらが社会的に容認できず、非生産的だとみなされるようになった。

17. 重要な点として、大陸ヨーロッパの国でこれほど高い税率を課したところは全くなかった。

18. アングロ・サクソンが累進課税に惹かれていることは相続税を見るとはっきりする。米国で最高相続税率は1930-1980年代にかけて70-80%の間であったが、フランスとドイツでは例外的状況を除き、30-40%を超えることはなかった。

19. イギリスは米国同様に相続税率が高かった。英米では稼いだ所得より稼いでいない所得の方があやしげだと考えられていたようだ。英米と大陸ヨーロッパの好対照ぶりには驚かざるを得ない。

20. 1930-1980年までの平等性への大いなる情熱を経験した後に、英米では同じくらい熱心に正反対の方向へと転換した。アングロ・サクソン諸国は金持ち相手にヨーヨーを繰り返したわけだ。

21. こうした方向転換は、英米が「他国に追いつかれるのではないか」と危機感を覚えたことが原因かもしれない。その危機感がレーガン主義、サッチャー主義の台頭を招いた。

22. すべての先進国を見ると、1980年から現在までの最高限界所得税率の低下規模はトップ百分位が国民所得に占めるシェアの増加幅と密接に関係していることが分かる。最高税率が最大の下落を示した国々は国民所得に占める最高所得者たちのシェアが最大の伸びを見せた国でもある。

23. 最高所得税率が高かった時代、企業の重役たちはムリをしてまでも昇給を勝ち取ろうとはしなかった。累進税率によって昇給の大部分が政府に行ってしまうからだ。ところが今では重役たちはすさまじい努力をして巨額の昇給を認めさせようとしている。

24. 最高所得に対して没収的な税率をかけるのは、超高給与の増大を阻止する唯一の方法だということだ。先進国での最適な最高税率はおそらく80%以上だ。

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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