浅沼宏和ブログ

2017.08.04更新

第6章 21世紀における資本と労働の分配

1. 長い目で見た場合、資本/所得比率は貯蓄率sと成長率gに左右される。

2. α=γ×βなら、たとえば資本ストックが国民所得6年分(β=6)、資本の平均収益率が年間5%の場合、国民所得に資本所得が占める比率αは30%になる。(=労働所得比率は70%)

3. イギリス、フランスでは18世紀後半から19世紀を通じて所得の資本分配率は約35-40%、20世紀半ばに20-25%に下がったが、20世紀後半から21世紀前半は25-30%に伸びている。

4. 上記の動きは資本の平均収益率に対応。資本の平均収益率は18、19世紀には約5-6%で、20世紀半ばに7-8%に上昇。その後、20世紀後半から21世紀前半に4-5%に下がっている。

5. 資本の収益率は資産によってまちまち。産業資本などは7-8%、18-19世紀の農地は4-5%、21世紀の不動産は3-4%、預金の実質利回りは1-2%程度以下。

6. 個人事業などの非賃金労働者の所得は「混合」所得と呼ぶ。労働所得と資本所得の混合だから。また、「起業所得」とも呼ばれる。

7. フランス、イギリス共に18-21世紀にかけて、純粋資本収益率は中央値にして年間4-5%、一般的には年間3-6%の間をウロウロしてきた。

8. 18、19世紀はしばしば4-5%を超えたらしいが、21世紀前半は資本/所得比率が過去に到達しなかった高水準を回復する中で、資本の純粋収益率は3-4%に近づきつつある。

9. 18、19世紀では最も普遍的でリスクの少ない資本(土地・国債)の収益率は年5%だった。その意味で土地と国債はほぼ完ぺきな代替品だった。

10. なぜ長年の間に資本収益率が4-5%から3-4%に低下したか?この問いに答える前に三つの点を整理する。

11. その1、税負担は20世紀に激増した。18、19世紀は税負担はないに等しかった。平均税率は現在の富裕国では平均約30%。これが主な理由となり資本による純粋な収益率と所有者個人に実際にもたらされる収益率に大きな差が生じている。

12. その2、約3-4%の純粋収益率は平均であり、その背後には莫大な収益率の幅が隠れている。

13. その3、上記に示された収益率は実質収益率。インフレ率は織り込み済み。

14. 両大戦後、インフレが富裕国では公的債務の価値を実質的に帳消しにする重要な役割を担った。だがインフレが相当期間にわたって高水準にとどまるのであれば、投資家たちは実体資産への投資で身を守ろうとする。

15. インフレが平均資本収益率に及ぼす潜在的影響はごく限られている。見かけ上の名目効果よりもはるかに小さい。

16. 資本の収益率を決めるのは第一に技術、第二に資本ストックだ。

17. 資本は二つの経済的機能を果たす。一つは住居の提供、もう一つは生産要素になること。

18. 資本の限界生産性―投資家は資本の最も有効な用途を見つけるのが仕事。資本市場が完全であれば、資本の各単位を可能な限り最も生産的な方法で投資させるだろう。

19. 実際には金融機関と株式市場はたいていこの完璧な理想からほど遠い存在だ。それが慢性的な不安定さ、投機の波、バブルをもたらしている。

20. 過剰な資本は資本収益率を減らす。資本ストックが増加すると、資本の限界生産性は当然下がるはずだ。限界生産性は量がある閾値を超えると減少する。

21. 特に重要なのは資本/所得比率βが増加する時、資本収益率γがどれくらい下がるかという問題。

22. 低下の可能性は二つ。

23. ①資本/所得比率βの増加の反比例より資本γの収益の減少が大きい場合、資本収益率の低下はβの上昇を相殺して余りあるものになる。

24. ②βの増加に反比例するほどγが低下しない場合、資本シェアはβの増加にともなって増加する。

25. 英、仏の歴史的推移では②が長期的に意味を持つようだ。

26. 生産関数などの問題より、有意義な意味を持つ問題は労働と資本の代替弾力性が1より大きいか小さいかだ。

27. 代替弾力性がちょうど1に等しい例は、コブ・ダグラス型生産。生産関数とは生産物の最大可能な産出量を生産要素の投入量に対応して表す関数のこと。

28. コブ・ダグラス型生産関数は第二次大戦後、経済学の教科書で非常に人気が出た。資本と労働の分配率の安定が平和で調和のとれた社会秩序感をもたらすとされたのが人気の原因。

29. しかし、所得の資本シェアの安定性は実際にはまるで調和を保証しない。一般に信じられているのとは裏腹に国民所得の資本シェアの安定性は資本/所得比率の安定性をまるで意味しない。

30. コブ・ダグラス型生産関数の不適切さ。超長期で見ると資本と労働の代替弾力性は1より大きかったらしい。資本/所得比率βの増加は国民所得の資本シェアαの微増につながった。

31. 1970-2010年には資本/所得比率が上昇したという意味では所得の資本シェアはほとんどの富裕国で増加。

32. 伝統的農業社会(資本が主に土地である農業が基盤)では、弾性値が1よりかなり小さい。どんな形の資本でもある点を超えると価格効果が数量効果を上回る。

33. 人的資本が重要性を増しているように見える。技術の変化によって労働要素の重要性が増したということ。実際、超長期で見ると所得の資本シェアが減少しているのでそう解釈できる。だが、今後数十年の推移を見なければ確かなことは言えない。

34. 現代技術はいまだに大量の資本を利用している。資本には多くの用途があり、収益をゼロにすることなく莫大な量を蓄積できる。このような状況下では労働にとって多少都合の良い方向に技術が変化したとしても、超長期的な資本シェアが減少するとは限らない。

35. 資本と労働の分配は短期的・中期的には頻繁に変化している。

36. 現在では長期的構造成長は生産性の成長がないと無理だとわかっている。

37. β=s/g の法則が明示しているように生産性と人口の永久的な成長のみが永続的に追加される新たな資本と釣り合いをとれる。

38. 資本/所得比率には、長期的に見ると比較的柔軟性がある。

39. 1956年に提唱されたソローのいわゆる新古典派成長モデルがはっきり勝利したのは1970年代。

40. ソローとサミュエルソンは成長プロセスは短期的に不安定であり、マクロ経済的安定にはケインズ流の政策が必要だと確信しており、β=s/gを長期的法則としか見なしていなかった。

41. β=s/gの法則は国や時代ごとに資本/所得比率に大きな差が生じることを否定するものではない。

42. ヨーロッパでは現在、資本/所得比率は、すでに国民所得およそ5-6年分に上昇しており、これは18世紀、19世紀、第一次大戦直前まで観測されていた水準にほぼ等しい。

43. 超長期で見ると、技術変化が資本よりも人間の労働にわずかに有利に働く可能性があり、そうなれば資本収益率と資本シェアは低下する。しかし、この長期的効果には限界があり、逆方向に向かう他の力にかき消されてしまう可能性がある。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.08.04更新

第5章 長期的に見た資本/所得比率

1. 18世紀以降のヨーロッパと北米の資本の変化を長い目で見ると富の性質は一変している。農地はだんだん工業・金融資本と都市部の不動産へと変わっていった。

2. しかし、驚くべきことに国民所得に対する資本ストックの総価値の比率は超長期においてはあまり変わっていない。

3. ヨーロッパでは国民資本は国民所得の約5、6年分だが、米国では4年分をわずかに超える程度になっている。この点が大きく違っている。

4. ヨーロッパでは1914-1945年のショックの影響が長く続き、1920-1980年代まで資本/所得比率はヨーロッパの方が低かった。それが1990年代に米国の水準を上回り、現在では5、6年分になっている。この構造上の違いを説明する必要がある。

5. 資本主義の第二基本法則‥‥β=s/g  資本/所得比率β、貯蓄率s、成長率g

6. 第二基本法則は、たくさん蓄えてゆっくり成長する国は、長期的には莫大な資本ストックを蓄積し、それが社会構造と富の分配に大きな影響を与えることを意味する。

7. 第二基本法則は漸近的、つまり長期的に見た場合のみ有効。富の蓄積には時間がかかるので法則の実現には数十年かかる。

8. 第二基本法則が有効なのは人間が蓄積できる資本に注目した場合だけ。国民資本の相当部分が純粋な天然資源ならば、βは貯蓄の恩恵を全く受けなくても非常に高くなる。

9. 第二基本法則が有効なのは資産価格が平均で見て消費者物価と同じように推移する場合だけ。不動産・株の価格が他の物価より急速に上昇すると国民資本の市場価値と国民所得の年間フローとの比率βは新たな貯蓄が無くても非常に高くなりかねない。短期的には相対資産価格の変動は数量効果よりかなり大きいことが多い。

10. β=s/g は当該国民が蓄財する理由と全く独立に成立する。

11. β=s/g の法則は世界大戦、1929年の危機を説明できないし、資本/所得比率に対する短期的ショックも説明できない。しかし、ショックや危機の影響が無くなった時、資本/所得比率が長期的に向かう潜在的な均衡水準を教えてくれる。

12. 富裕国の1970-2010年ではすべての国々の資本/所得比率は短期間で絶えず変動している。その理由は不動産・金融資産の価格が変動しやすいことにある。

13. 資産を支払額以上の価格で売却できる見込みがある限り、資産のファンダメンタルズによる価値より多く払う方が個人としては合理的。これが不動産・株の投機バブルが存在し続けてきた理由。

14. 日本では1990年代前半に民間資本の価値が激減し、1990年代半ば以降は国民所得のおよそ6年分で安定した。

15. 1970年代、富裕国すべてにおいて民間財産の総価値は国民所得の2-3.5年分だった。それが40年後の2010年には4-7年分になっている。バブルを無視しても富裕国では民間資本が強力な復活を遂げている。

16. この構造的進化は経済成長の鈍化、特に人口増加の低迷に貯蓄率の高さが相まって、 β=s/g の法則により自動的に長期的な資本/所得比率の増加をもたらした。

17. さらに二つの理由。一つは1970-80年代に民営化と公共財産の民間移転が進んだこと、もう一つは不動産と株式市場の価格に影響した長期的キャッチアップ現象。

18. 低成長と高貯蓄率こそβ上昇の原因。

19. 日本では1970年以降、年間約15%の貯蓄率に2%程度の経済成長率であったため国民所得6-7年分に相当する資本ストックを蓄積できた。

20. 民間貯蓄の構成要素は二つ。民間個人が直接行った貯蓄、企業が所有者である民間人にかわり直接的あるいは金融投資を通じて間接的に行う貯蓄。

21. 長期的には株価が消費価格より急速に上昇する傾向があるが、それは基本的には内部留保により企業が規模と資本を増やせるから。

22. 株主の立場からは配当の税率の方が内部留保の税率より高い。資本の所有者にしてみれば配当より内部留保し再投資してもらったほうが好都合。

23. 内部留保の大部分は建物や設備の維持に回る。純投資の資金として残るのはわずか。

24. 民間財産が復活を遂げた原因の一つは国富の民営化。富裕国すべてで公的貯蓄の取り崩しと結果的に生じる公共財産の減少が民間財産増加の相当部分を占めた。

25. 過去数十年の資本/所得比率の増加を説明してくれる最後の要素が資産価格の歴史的回復。第二次大戦による不動産・株の価格の低迷はすでにキャッチアップ・プロセスを完了させている。

26. トービンのq=時価/簿価 は増加傾向にある。独・仏・日。

27. 日本とドイツは過去数十年間、とりわけ2000年代にかなり多くの純外国資産を蓄積した。

28. 日本の例はβ=s/gの法則が非常に大きな国際的資本格差を生じさせることを示す。成長率、貯蓄率のわずかな差が国ごとの資本/所得比率に大きな差をもたらす。

29. βに注目すれば経済の過大評価を検出し、賢明な政策や金融規制を導入してバブルを抑制することができるかもしれない。

30. 小さなネット・ポジションに膨大なグロス・ポジションが隠れているおそれがあることにも注意すべき。

31. あらゆる国がかなりの程度他の国々に所有されているのが現在の金融グローバル化の特徴のひとつ。これは小国の重大な脆弱性とネット・ポジションの世界的分布の不安定さを示す。

32. 動学法則β=s/gを使えば世界の資本/所得比率が21世紀にどんな水準になるかを検討できる。2100年には地球全体が20世紀初めのヨーロッパのようになっている可能性がある。

33. 動学法則β=s/gは資本蓄積にとって低い経済成長率の役割がいかに重要かを示している。

 

 

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2017.08.04更新

第4章 古いヨーロッパから新世界へ

1. イギリス、フランスのたどった軌跡とドイツの軌跡を比べると興味深い。全体的な推移が似ている。農地が長期的には住居用・商業用不動産と産業・金融資本に取って代わられている。

2. 19世紀後半、ドイツでは農地が重視されていたのでイギリスよりはフランスに似ている。産業資本の価値はフランス、イギリスより上。対照的に一次大戦直前のドイツの外国資産はフランスの半分だった。

3. 過去数十年間には貿易黒字のおかげでドイツはかなりの外国資産を蓄積した。

4. 1930-1950年のドイツの平均インフレ率は約17%。物価はこの期間に300倍になった。20世紀のドイツはどの国よりもインフレで公的債務を埋めた国だった。

5. インフレ頼みのやり方は極端であり、とくに1920年代のハイパーインフレはドイツ社会と経済の安定を揺るがせた。ドイツ国民はこの経験のせいでひどいインフレ嫌いになった。

6. イギリスはインフレに対して柔軟な姿勢を見せている。

7. 公共資産の蓄積についてもドイツはフランスに似ている。

8. 1950-1980年、ドイツの純公的資本は国民所得の1年分に近かったが、当時ごく低水準だった民間資本はギリギリ2年分だった。

9. 1970年以降、経済成長の伸び悩み、公的債務の累積により2010年には純公共財産はほぼゼロ。1950年以来着実に増加していた民間財産が国富のすべてを占めるようになった。

10. ドイツの民間財産は第二次大戦以降すさまじく増加していった。

11. 1944-1945年の大規模空爆でフランスでは国民所得のおよそ1年分、ドイツでは1.5年分の資本が破壊された。

12. 1913-1950年の資本/所得比率のすさまじい下落を説明する主な要素は二つ。①外国ポートフォリオの崩壊と貯蓄率の低さ ②企業の混合所有と規制による資産価格の低さ。

13. 経済成長の低迷、度重なる不況のせいで1914-1945年はヨーロッパの暗黒時代だった。特にベル・エポック期と比べて所得が激減した富裕層にとって厳しい時代だった。

14. 1930年代の大恐慌では株主や債券保有者の多くが破たんした。さらにわずかな民間貯蓄の大部分は膨大な財政赤字に吸収された。

15. 1913-1950年の資本/所得比率の減少は特にヨーロッパの資本家たちの安楽死の歴史だった。これは資産の市場価値とその所有者の経済力をそぐという狙いがあったためだった。

16. イギリス、フランス、ドイツの第二次大戦後の不動産価格と株価の低さの原因の多くは数量効果(国民貯蓄率の低さ、外国資産の損失・破壊)によるものだった。

17. 1970、1980年代とりわけ1990、2000年代の不動産・株式市場価格の回復は非常に強く、今度は成長率の構造的減少という数量効果の影響が大きかった。

18. 新世界の米国は旧世界のヨーロッパに比べて資本があまり重要ではなかった。1人あたり土地面積は古いヨーロッパよりも北米の方が明らかにずっと多かった。だから1人当たり資本はヨーロッパより北米の方が明らかに多かった。

19. 米国の資本/所得比率は低かった。ヨーロッパで総資産が国民所得の7年超であったのに対して米国ではかろうじて3年分だった。これは米国では地主の影響力と富の蓄積があまり重要でなかったことを示している。新世界に来た人たちは2-3年で裕福な先行者たちとの間の初期格差を埋められた。

20. 米国は資本主義になっていったが、米国の広大な領土を全体的に捉えた場合、ベル・エポック期のヨーロッパに比べ富は相変わらず影響力が小さかった。

21. 20世紀の各種の打撃もヨーロッパに比べて米国でははるかに弱く、資本/所得比率はずっと安定していた。

22. また米国では外国資本はずっとたいして重要ではなかった。だから米国は一度も植民地大国になったことがない。

23. 逆にヨーロッパの市民は世界を所有することに慣れていたため第二次大戦後の復興の一部が米国のマーシャルプランによるものだという考えにいら立ちを覚えていた。だが、米国による投資はかつての植民地大国による投資に比べればごく限られたものだった。

24. カナダでは事態は違う展開を見せた。国内資本のかなりの部分をイギリスを中心とした外国の投資家が所有していた。特に天然資源部門でその傾向が顕著だった。

25. 二回の大戦で状況が変わった。ヨーロッパ市民が外国資産を手放す流れが続き、純対外債務は1990年には国内資本の約10%だった。現在、カナダの状況は米国とよく似たものになっている。

26. ヨーロッパと米国の資本の変化を考えるには奴隷制の問題が大きい。奴隷制度に基づく富の集中は最も大きな意味を持っていた。

27. 18世紀後半、19世紀前半は奴隷の総市場価値は米国の国民所得のおよそ1.5年分に相当し、これは農地の総価値にほぼ等しかった。

28. 奴隷を富の構成要素と見てその他の富と合計すると国民所得の4.5年分であった。

29. 奴隷の価値を加えた南部諸州の資本価値は所得6年分を超え、イギリスやフランスの資本の総価値に匹敵した。一方、奴隷のいない北部では富の総量は非常に少なかった。資産はせいぜい所得の3年分だった。米国では正反対の二つの現実が混在していた。

30. 格差をめぐる複雑で矛盾した関係は現在の米国にも根強く残っている。一方で平等を約束して恵まれない数百万の移民に機会をもたらす国でありつつ、他方では人種に関して極めて残酷な格差が存在し、その影響がいまだに見える国となっている。

31. 奴隷がもたらす利益は非人的資本の1.5倍に相当する。奴隷の価値を資本価値に加えると国民所得20年分になる。年間所得フローの総額と算出の5%が資本化されるからだ。

32. 実際、南北戦争以前の米国では奴隷の市場価値は一般的に自由労働者の賃金10-12年分に相当していた。

33. こうした事実から21世紀における主要な資本とは人的資本であることが示される。これは特に驚くべき結論ではなく、労働所得のフローを資本に対する所得フローと同じ比率で資本化して考えれば人的資本の価値はその他のあらゆる資本の価値を上回るに決まっているからだ。

34. しかし、人的資本ストックに値段をつけることに意味があるのは奴隷社会だけ。ここに矛盾がある。

 

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2017.08.03更新

第3章 資本の変化

1. 19世紀の古典小説の世界では富とは土地か国債のどちらか。

2. つきつめれば国債とは国民のある一部が別の一部に対して持つ請求権に過ぎない。

3. 18-19世紀を通じて1914年までは国民資本の総価値は国民所得の6-7年分の間で推移している。

4. 過去1世紀に見られるのは見事な「U字曲線」。資本/所得比率は1914-1945年に3分の2近くに減少し、1945-2012年には倍以上に増加している。

5. 結局、2010年には資本/所得比率は第一次大戦以前の水準に戻った。

6. 超長期で見ると農地がだんだんと建物、企業資本、企業・行政機関に投資された金融資本に代わられつつある。

7. 国民資本=農地+住宅+他の国内資本+純外国資本

8. 18世紀、農業はすべての経済活動・雇用の約4分の3を占めていた。それが現在では2-3%にすぎない。

9. 農地の価値の暴落は住宅価値の上昇やその他の国内資産の価値の上昇で埋め合わされている。

10. 資本の性質は変わった。かつては大部分が土地だったが、いまでは住宅と工業資産、金融資産になった。だが資本の重要性は相変わらずだ。

11. イギリスから外国に資産が大量に蓄積されはじめたのは19世紀で、この時に最も資金が蓄積された。多くの植民地を有するフランスも同様だった。

12. イギリスとフランスの純外国資産のポジションが高かったため、19世紀後半と20世紀前半に構造的な貿易赤字を出すことができた。

13. この時期、イギリス、フランスは外国資産による総収益が国民所得の5%超に相当したため、国際収支が大きくプラスとなり、外国資産を毎年増やせた。

14. 植民地を併合し、外国資産を蓄積する目的は、貿易赤字をだせる立場に立つことにあった。

15. 二度の大戦、大恐慌、非植民地化などの打撃で外国資産の膨大なストックがやがて消滅した。

16. 現在、イギリスとフランスの1人当たり国民所得は年3万ユーロ、国民資本は国民所得の約6倍で1人当たり約18万ユーロ。

17. 現在、公共資産の総価値はイギリスは国民所得1年分、フランスではその1.5倍。イギリス、フランス共に公的債務はほぼ公共資産とほぼ同じ。つまりトントン。

18. 2010年の民間資産ではイギリス、フランスともに国富のほぼ全額を占めている。

19. フランス、イギリスは民間財産の規模を根本的に変えるほどの巨額の公的債務を抱え込んだことはない。

20. イギリスは過去二回、ナポレオン戦争末期と第二次大戦後に公的債務の高い水準に達した。

21. イギリスは高い水準の公的債務を抱えたがデフォルトを起こしたことはない。デフォルトを起こさない場合、巨額の公的債務返済には非常に長い期間がかかる。

22. ナポレオン戦争期の公的債務を財政黒字によって減らすのにほぼ1世紀かかった。

23. 公的債務の水準の高さはイギリスの民間財産の影響力を強めた。19世紀初頭の公的債務増加を支えたのは主に民間貯蓄の増加だった。当時、国民資本は国民所得の7年分の水準で安定していた。一方、民間財産は国民所得の8年分超だった。

24. 当時、公的債務の水準の高さは貸し手にとって都合がよかった。無償で税を納めるよりも、国に貸し付けて数十年に渡って利息を受け取る方が有益だった。

25. 19世紀は政府への貸し付けの報酬が高かった。インフレは事実上ゼロで国債の利率はおおむね4-5%だった。

26. 19世紀のイギリス政府の財政基礎収支は常に相当の黒字だった。

27. イギリスの公的債務の減少には1世紀近くかかったが、それはイギリスの国内生産と国民所得の成長のおかげだった。

28. 20世紀の公的債務の減少はインフレに埋もれた。

29. インフレによる再分配はイギリスに比べてフランスで大規模だった。

30. インフレによる再分配のメカニズムはきわめて強力で、イギリスでもフランスでも20世紀に重要な歴史的役割を果たした。

31. インフレのメカニズムは永久には続けられない。高インフレは常に加速しやすく、勢いがつくと止めるのが難しくなる。1970年代のスタグフレーションがその例。

32. リカードの等価原理:「ある状況下では公的債務は国民資本の蓄積に影響しない」。現実に公的債務の増加は民間貯蓄の蓄積で賄われていたようだ。

33. イギリスの公的債務は国富に目に見える形では影響を与えない。ある集団が別の集団に対して王再建を示すにすぎず、それをはっきり認識していた。

34. 公共資産の総価値はフランス、イギリス共に長期間をかけて増加し、18、19世紀にかろうじて50%程度だったものが20世紀終わりには100%に達した。

35. 国家の歴史的・経済的役割が拡大。特に保健医療・教育分野そして広範な公共サービスの発展、交通・通信分野への投資。

36. 産業・金融部門での莫大な公共資産の蓄積、これら資産の民有化の大きな波。

37. 1929年10月に始まる大恐慌は富裕国にその後も例を見ない激しい痛手を与えた。米国、ドイツ、イギリス、フランスの労働人口の4分の1が失業した。経済に対する伝統的「レッセフェール」主義の信用は落ちた。

38. フランスでは1945年以降、民間の資本主義に不信感を抱く傾向が強まった。経済の主要部門の多くが国有化され、1950年には政府は国富の25-30%を所有していた。

39. フランスの歩みの特徴は1950-1980年に栄えた国有化が1980年以降とても低い水準に下落したこと。民間財産(金融財産、不動産)はイギリスより高い水準に上昇した。

40. 1950年以降の国家資本主義の時代を経てフランスでは私有制資本主義に移行した。

41. こうしたフランスの変化は明確には認識されていなかった。財・サービスの市場開放、金融市場と資本移動の規制緩和を含む経済民営化は1980年代に世界中に影響を与えた。

42. 1970年代の「スタグフレーション」は戦後のケインズ的コンセンサスの限界を示した。そして米英の1979-1980年「保守革命」が起きた。

 

 

 

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2017.08.03更新

2章 経済成長―幻想と現実

1. 新興国が先進国に追いつこうとする世界的な収斂プロセスが起きている。それでも富裕国と最貧国との格差は大きい。

2. 良い結果が起きるには最貧国が自分で自国に投資できなければならない。

3. もう一つの重要問題。21世紀には低成長時代が復活するかもしれないということ。例外的な時期を除き歴史的には低成長時代が当たり前だった。

4. 成長を理解するために産出の成長を二つに分解することが重要。人口増加と一人当たり産出の成長とに分ける。

5. 経済成長には純粋に人口的な部分と純粋に経済的部分がある。生活水準の改善に寄与するのは後者の経済的部分だけ。

6. 世界的な一人当たり産出の成長率は年率2%をわずかに上回るだけでしかない。

7. その一、18世紀にはじまった成長率の上昇は年間成長率としてはつつましいものだった。その二、成長に占める人口増加分と経済の部分とはだいたい同じ規模だった。

8. 年率1%ぐらいの成長がとても長い期間続くときわめて急速な成長になる。産業革命前の数世紀がほぼゼロ成長であったことを考えるとよい。

9. 今後の数世紀の成長はかなり低い水準に戻るはずだ。

10. 「累積成長の法則」‥低い成長率でもきわめて長期間続けばかなりの進歩につながる。

11. 累積成長の法則は基本的には累積収益の法則と同じもの。

12. 資本収益率、経済成長率のわずかな違いでも長期的には社会的格差の構造や力学に対し、強力で不安定化するような影響をもたらす。

13. 西暦0年から1700年までの平均人口成長率は0.2%以下だったのは確実。

14. 人口増加は1700年以後かなり加速した。18世紀は平均年率0.4%、19世紀には0.6%になった。ヨーロッパだけでは19世紀から0.8%の増加だった。

15. 第一次大戦前後からヨーロッパの人口増加率は低下し、0.4%程度になった。人口転換と呼ばれる現象で、平均余命の伸びを出生率低下が相殺した。

16. アジア・アフリカでは長く出生率が高止まりしたため20世紀の人口増はめまいがするほど高いものになった。

17. 世界人口の増加率は1700~2100年の間に巨大な釣鐘型の曲線を描いたことになる。特に1950~1990年には2%近くというすさまじい頂点を迎えた。

18. 夫婦が持ちたがる子供の数が少し変わるだけで社会全体にとってすさまじい影響をもたらす。そして子作りの選択は予測不可能。人口のパターンには無数の地域差や変化がある。

19. 人口増加が大きいと格差低下につながりやすい。それが相続財産の重要性を引き下げるため。

20. 人口が横ばい、または人口減になると先代が蓄積した資本の影響が高まる。

21. 低成長だと資本収益率は成長率より大幅に高くなる。すると長期的には富の分配格差につながる。

22. 高い成長が格差縮小をもたらすもう一つのメカニズムがある。成長は少なくともエリート層の入れ替わりをもっと急速にしてくれる。

23. 成長がゼロないし小さい場合、経済機能、社会機能、各種の専門機能は世代ごとにほとんど変化なしに再現され続ける。しかし、絶え間のない成長は新規技能を必要とする。成長により個人の社会的モビリティが高まる。

24. 現代の経済成長が個人の能力・適性を明らかにする道具という常識は疑った方が良い。19世紀以来、この理屈が各種の格差の正当化に使われすぎている。

25. 1人当たりの産出という概念は人口よりもはるかに抽象的になる。人口は少なくとも目に見える現実に対応している。しかし、経済発展や暮らし方は多次元的なプロセスであり、ひとつの指数でうまくまとめられるものではない。

26. 1700~1820年までヨーロッパでは購買力はほとんど増えなかった。1820~1913年では倍以上になり、1913~2012年で6倍以上に増えた。

27. 経済成長が万人にとって目に見える現実となったのはやっと20世紀になってからだった。

28. 長期的な購買力改善と生活水準向上は主に消費の構造が変化することで生じる。もともと消費者のバスケットには食品しか入っていなかったが、それがだんだん工業製品やサービスがたくさん入り、ずっと多様化した財のバスケットになった。

29. 長期的には相対価格が大幅に変動し、一般消費者の財のバスケット構成も派手に変わる。これは主として新しい財やサービスが登場するせいだ。

30. 三種の財の価格の推移。工業材は生産性成長が高かったため価格は下がっている。食品部門は工業部門に比べて生産性向上は低めだが、それでも全物価平均と同じ程度で推移した。サービス部門の生産性向上は低く、サービス価格は全物価平均よりも急速に上がっている。

31. 一般的には上記の三種の財の区分で説明できるが個別に洗練させる必要がある。

32. たとえば食品は20世紀を通じて輸送費の激減で恩恵を受けてきた。逆にPCや携帯電話、タブレット、スマートフォンなどはきわめて短期間に購買力の10倍増をもたらした。価格は半分になり性能は5倍になった。

33. サービス部門は多様性が最も極端。そもそもサービス部門という発想自体が無意味。先進国では労働力の7~8割がサービス部門で働くようになり、この分類自体が以前の意味を失った。

34. サービス部門は莫大な活動の寄せ集めだが、19世紀以来の生活条件改善のほとんどは、この部門の成長のおかげ。

35. サービス部門のかなりの部分、特に保健医療や教育関連サービスの相当部分は税金で提供されている。この二つは過去2世紀にわたる生活水準改善の中で最も目に見える素晴らしいものだった。

36. 公共サービスを完全にGDP計算から除外するのは経済的に馬鹿げている。

37. 会計手法は教育と保健医療の根本的な「価値」を過小評価してしまい、おかげでこうした分野のサービス急拡大期で実現された成長も過小評価しているかもしれない。

38. 年率3~4%以上の成長が起こった歴史的事例は、他の国に急速に追いつこうとしていた国だけで起きた。

39. 重要なのは、世界の技術的最前線にいる国で一人当たり産出成長率が年率1.5%を上回った国の歴史的事例は一つもない。

40. 成長というものが最低でも年率3~4%であるべきだという考えは歴史的にも論理的にも幻想に過ぎない。

41. 1人当たり産出の成長率が年率1%くらいというのは実はかなりの急成長。30年単位で見ると累積成長率は35%以上になる。

42. 30年で一人当たり産出が35~50%増えるということは、今日生産されているもののかなりの部分が30年前には存在せず、したがって職業や仕事の4分の1から3分の1は当時は存在しなかったということ。

43. 成長率が年率0.1~0.2%の社会はまるで変化がない状態で次世代が再生産される。職業構造も財務構造も同じ。

44. 年率1%で成長する社会は深い永続的変化を伴う社会となる。

45. フランスの戦後の栄光の30年は歴史的に見ると例外的な時代だった。

46. 栄光の30年は米国では起きなかった。

47. 西欧は両大戦の被害が大きかったので成長率の変化は激しい。

48. 西欧が成長の黄金時代を実現したのは1950年から1970年にかけて。その後、数十年で成長率は半分から3分の1に下がった。

49. 20世紀における異なる集合的成長体験を見ると、商業と金融のグローバル化に対する各国の世論が大きく違う理由がわかる。

50. 人口増加と1人当たり産出は18~19世紀にかけて加速し、20世紀に大きく高まり、それが21世紀にずっと低い水準に戻りそうだ。

51. 世界人口増加率は21世紀後半にはゼロ近くまで下がるだろう。

52. 世界の1人当たり産出成長率は人口よりピークがずっと遅く、それはゼロ近くまでは下がらず、年率1%あたりにとどまるだろう。

53. 世界の成長を巡る二つの釣鐘曲線は相当部分がすでに決まっている。

54. 新興経済が金持ち経済との差をどんどんつめ続け、大きな政治的軍事的障害が起こらずにこのプロセスが2050年ごろに完了するというシナリオは楽観的すぎるかもしれない。

55. 成長は常に新しい財やサービスをもたらし、相対価格のすさまじい変動を引き起こす。

56. 相対価格に加えてインフレの問題がある。第二次大戦の公的負債を富裕国が始末できたのは基本的にインフレによる。

57. インフレは20世紀を通じて社会集団間での再分配をもたらした。

58. インフレはおおむね20世紀の現象。18世紀、19世紀を通じて古典文学に出てくる貨幣価値はあまり変化していない。

59. インフレのない世界は第一次大戦によって永遠に崩壊した。政府はどこもすさまじい赤字財政を出した。

60. 金本位制を維持するために1946年に確立された体制(ブレトン・ウッズ体制)は、ドルの金兌換が停止された1971年に終わった。

61. どの国でも1914~1945年のショックが戦前世界の金銭的確実性を乱した。

62. 安定した通貨参照点が20世紀に失われたのは、それまでの正規からの大幅な逸脱なのだ。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.08.03更新

1章 所得と算出

1. 生産からの収入は労働と資本の間でどのように山分けされるべきかという論点。

2. 長期的に見た資本と労働の分配の関係は実は不安定。多くの経済学者は労働3分の2、資本3分の1の比率で分配が安定していると誤解している。

3. 第一次大戦、大恐慌、第二次大戦により資本分配率は1950年代に史上最低になった。

4. 今日、富裕国では資本の重要性が高まっている。人口増加と生産性成長の両方が減速したのが原因。

5. こうした変化を理解する最も有意義な方法は資本と労働の分配率ではなく、資本/所得比率の変化を分析すること。(資本の総ストックと年間の所得フローの比率)

6. 国民所得はある国の住民に提供されたその年のすべての所得の総和。GDPはある国の国境内でその年に生産された財・サービスの総和。GDPから減価償却費分(約1割)を引くと「国内純生産」(国内生産、国内産出とも)になる。そこに外国からの純収入を加えると国民所得になる。

7. 国民所得=国内産出(国内純生産)+外国からの純収入。

8. 国内生産は高くても外国に流れる利潤・賃料が大きければ国民所得は小さくなる。逆に他国の資本の相当部分を保有している国は、国内生産よりはるかに高い国民所得を享受できる。

9. 現在、多くの国は思った以上にバランスの取れた状態にある。主要国では国民所得と国内生産の乖離は1―2%に過ぎない。

10. 資本を巡る格差は国際的問題というよりは国内問題。国内での資本の所有格差が問題を引き起こしている。

11. 成長プロセスとそれが生み出す格差を理解するには人的資本と非人的資本を区別する必要がある。ここでは非人的資本を「資本」と呼ぶ。

12. 資本には価値の蓄積するものであり生産要素でもあるという二重の役割がある。

13. 住宅不動産も「住宅サービス」を生み出す資本資産と考えられる。その価値は賃料相当額で計測可能。

14. 国富=民間財産+公的財産、国富=国民資本+純外国資本

15. 第一次大戦後、英仏は他国に対し大幅な純プラス資産ポジションを得ていた。

16. 1980年代以来生じた金融グローバリゼーションによって多くの国が純資産ポジションをおおむね均衡させた。ただし、相互に巨額の資本受益権を持ち合うという関係になっている。

17. あらゆる国の純ポジションの合計は必ずゼロになるので地球の富の総額は地球全体の「国内」資本に等しい。

18. 所得はフロー、資本はストック。資本/所得比率をβとする。

19. 今日の先進国ではβはだいたい5―6くらい。資本ストックはほぼ民間資本。

20. ただし、日本とイタリアのβは6以上あり、米独は5以下。

21. 世界の富裕国の一人当たり国民所得は3万ユーロくらい。

22. 平均所得の数字の背後には大きな格差が隠れている。一部は労働賃金の差だが、資本所得の差はさらに大きい。

23. 資本所得の格差の原因は極端な富の集中の結果。

24. 人口の大半は蓄積した富が少なく、多くは1年分の所得よりかなり少ない。せいぜい数週間から一か月分の賃金程度の貯金があるだけ。

25. 資本主義の第一基本法則:α=γ×β  *γ=資本収益率  α=資本収益のシェア β=資本所得比率

26. β=600%、γ=5%ならα=30%になる。つまり国民所得における資本収益のシェアは30%ということになる。

27. 三つの最重要概念‥資本/所得比率、所得中の資本シェア、資本収益率

28. 資本収益には、利潤、賃料、配当、利子、ロイヤルティ、キャピタルゲインなどが含まれる。利潤率や利子率よりはるかに広い概念。

29. 株式の平均長期収益率は多くの国で平均7―8%。

30. 2010年頃の富裕国はβ=600%、資本シェア30%、α=5%ぐらいだった。

31. βはその社会がどれだけ資本主義的かを表している。

32. 次に貯蓄率、投資率、成長率の概念が重要になる。ここから資本主義の第二基本法則が出てくる。貯蓄率が高いほど、成長率が低いほど、資本/所得比率(β)は高くなる。

33. 1900年から1980年では世界の財・サービスの生産の7~8割は欧米に集中した。しかし、2010年には欧米のシェアは5割にまで低下した。

34. 欧米は産業革命で実現したリードで人口比率の2―3倍の世界産出シェアを実現させた。つまり一人あたりの産出が世界平均の2―3倍高かった。

35. 1人当たり産出がこれだけ開いた時代は終わりつつある。*収斂の時代

36. ヨーロッパが最高の経済的地位を獲得したのは第一次大戦前夜。世界産出の5割近くを占めていた頃。以後、じわじわとその地位を下げている。

37. 米国は1950年代にピークに達し、世界産出の4割を占めていた。

38. 2012年、世界人口は約70億人、世界産出は約70兆ユーロ。つまり世界の1人当たり産出はほぼ1万ユーロ。平均月額所得で約760ユーロ。

39. 世界の格差は、下は一人当たり月額所得150―200ユーロの地域(アフリカ、中東、インド)、上は2500―3000ユーロの地域(西欧・北米・日本)。格差は10―20倍。世界平均は中国の平均と大体同じで月額600―800ユーロ。

40. 世界の格差を知るには現行為替レートではなく、購買力平価を使う方が良い。為替レートよりも安定しているため。

41. 2012年、最富裕国(EU、米国、カナダ、日本)が世界所得に占める割合は購買力平価で46%、現行為替レートで57%。

42. 世界の所得分配は産出の分配より格差が大きくなる。富裕国は他国への投資による資本からの所得フローがあるから。

43. 具体的には主要先進国は現在、国内生産より少し高い国民所得を享受している。相互投資で外国からの純所得はほんの少しプラスであるため。

44. 総所得と総産出が大きく一致しない唯一の大陸はアフリカ。資本のかなりの割合が外国人に保有されているため。アフリカ資本の約2割が外国人に所有されている。

45. 第一次大戦前、ヨーロッパ列強はアジア・アフリカの国内資本の3分の1から2分の1を所有していたと推定される。工業資本に関しては4分の3だったようだ。

46. 理屈の上では富裕国が貧困国の資本の一部を持つことは格差の収斂を後押しするはず。富裕国が手持ち資金を投資すれば投資収益が得られ、貧困国は生産性をあげて富裕国とのギャップを埋められるようになる。

47. しかし、上記の理論には二つの欠陥がある。

48. 欠陥①:1人当たり産出が収斂しても一人当たり所得の収斂は保証されない。資本の完全移動性、国同士の技術水準・人的資本が等しくなければ富裕国はいつまでも貧困国の資本を持ち続け、格差は拡大する。

49. 欠陥②:近年、先進国に近づきつつあるアジア諸国はいずれも巨額の外国投資の恩恵を受けてはいない。物的資本、人的資本への投資を自力で賄ってきた。

50. 最新の研究では人的資本が長期成長のカギとなることがわかっている。

51. 他国に所有された国はあまり成功していない。将来性のない分野に特化したり、慢性的政治不安定にされたりしたことが原因。

52. 自国資本が外国に所有されている国では、それを自国に収容しろという社会的欲求が高まり政治的に不安定になりがち。

53. 国際レベルでも国内レベルでも、収斂の主要なメカニズムは歴史的経験から見て知識の普及にある。つまり、最貧国は富裕国と同水準の技能・教育を実現しなければ格差を収斂させることはできない。

54. 知識の普及は国際的な開放性と貿易により加速される。各国の政策ももちろん重要。

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.07.31更新

このブログを通じてトマ・ピケティの名著『21世紀の資本』の要約を行います。

「まえがき」ではピケティが3世紀に渡る対極的視点から、資本蓄積の最も重要な原理が「r>g」つまり「資本の収益率>経済成長率」であることを提示しています。

歴史的に著名な経済学者、マルサス、リカード、マルクス、クズネッツが提案した理論のシンプルな解説、その時代背景を前提に、今知るべき原理こそが「r>g」であるというわけです。

 

はじめに
1. 富の分配は今日最も広く議論され、かつ意見の分かれる問題の一つ。

2. 19世紀にマルクスが信じたように私的な資本蓄積の力学によって富はますます少数者に集中するのか?サイモン・クズネッツが20世紀に考えたように成長と競争、技術進歩という均衡力のおかげで発展の後期段階においては階級間の格差が縮まり、もっと調和が高まるのだろうか?

3. 18世紀以来、富と所得がどう推移してきたかについて本当に分かっていることとは何か?そこから今世紀についてどんな教訓が引き出せるだろうか?

4. 現代の経済成長と知識の浸透のおかげでマルクス主義的な終末は避けられたが、資本や格差の深層構造は変わったわけではない。少なくとも第二次大戦以後の楽観的な数十年で想像されたほどは変わっていない。

5. 富の分配をめぐる論争の多くは思い込みと事実の欠如に基づく。本書は大量の情報に基づいて新たな視点を提示する。

6. 18世紀末、19世紀初頭にイギリスとフランスで古典派政治経済学が生まれた時点で、すでに分配は主要な問題だった。当時の激しい転換は持続的な人口増が原因だった。

7. 1798年に『人口論』を刊行したマルサスにとって結論は明らかだった。主要な脅威は人口過剰と考えられた。世界は人口過剰によってカオスと悲惨に向かうと予想された。

8. 現代の視点でマルサスの破滅の予言を馬鹿にするのは簡単だ。しかし、当時の社会の転換は当事者にとってかなり衝撃的であり、トラウマ的な体験であったことは認識すべきだ。

9. リカードやマルクスも富の分配、社会階級構造の長期的進化についてかなり悲観的な見方をしていた。

10. リカードは人口と産出がどちらも安定成長に入ると、土地が他の財に比べて希少になり、地価が上がることで地主に富が集まると考えた。だから、リカードにとって論理的かつ政治的に容認できる唯一の答えは地代に対する税の引き上げであった。

11. しかし、リカードの予測は間違っていた。地代は長期的に高止まりしたが、国民所得に占める農業比率の低下により、農地の価値はだんだん低下していった。1810年のリカードにとって、その後生じた技術進歩や工業の発展の重要性など思いもよらなかった。

12. マルサスにしてもリカードにしても人類が食料調達の必要性から解放されることなど思いもよらなかった。

13. リカードの理論の根底には「希少性の原理」がある。そして、価格システムがこれを調整するとされている。価格システムは重要だが、新グローバル経済において、価格システムに道徳性がないことが問題になる。

14. 21世紀における世界の富の分配を理解する上でも希少性の原理は重要。リカードのモデルの農地価格を先進国の都市不動産価格や原油価格に置き換えて考えればよい。どちらにも不均衡が生じており、リカード的な終末論が想起される。

15. このプロセスに均衡をもたらしそうなきわめて単純な経済システムも原理的には存在する。需要と供給のメカニズムだ。ただし単純に考えて済む問題ではない。

16. マルクスが『資本論』を書いた当時、経済成長にもかかわらず工業プロレタリアートは悲惨だった。マルクスは工業資本主義の力を理解しようとした。

17. データを見ると、賃金の購買力がかなり上がったのは19世紀後半だ。それまでの長期にわたる賃金停滞はドイツのみならずイギリス、フランスでも見られた。この時期に経済成長が加速していたことを考えると国民所得に対する資本(工業利潤、地代、建物賃料)の比率は高いといえる。

18. 第一次大戦まで格差が構造的に減った様子はない。

19. 半世紀以上も工業成長が続いたのに大衆のおかれた状況は以前と同じぐらい悲惨だった。立法者にできることが8歳以下の工場労働を禁じるだけならば、経済発展、技術的イノベーション、人口移動などに何の意味があるだろう。多くの人は長期的発展を疑問に感じていた。

20. マルクスはこの問題に正面から答えようとした。工業の発達が逆にブルジョワジーの基盤自体を奪い取ると考えた。ブルジョワジーの没落とプロレタリアートの勝利は不可避であると予測した。

21. マルクスはリカード的な資本価格モデルについて希少性原理を基盤として、資本が土地不動産ではなく、主に工業用の財(機械、工場等)となり、蓄積できる資本の量には原理的に何の制限もなくなった世界を考えた。マルクスの結論は「無限蓄積の原理」とでも呼べるものだった。

22. 無限蓄積の原理とは資本が蓄積してますます少数者の手に集中してしまうという必然的な傾向だ。これがマルクスによる資本主義の破滅的な終末予測の基盤となった。

23. 無限蓄積の原理によっていずれは資本収益率の低下、国民所得における資本比率の極端な高さがもたらされる。これが社会を不安定化するという予測。

24. マルクスの悲観的な予測はリカードと同様に実現しなかった。19世紀後半にやっと上昇を始めた賃金が労働者の購買力を改善させたため。これが状況を激変させた。とはいえ極端な格差は縮まらなかった。

25. マルクスもまた持続的な技術進歩と安定的な生産性上昇の可能性を完全に無視していた。

26. 多くの制約に関わらず、マルクスの分析はいくつかの点でいまだに有意義だ。出発点としての空前の富の集中、それについて手持ちの手段で応えようとしたことは現在の経済学者も見習うべきだ。

27. マルクスの提案した無限蓄積の原理には重要な洞察が含まれている。もし人口増加率と生産性上昇率がそこそこ低ければ、蓄積された富は自然とかなりの重要性を持つようになる。特にそれが極端な割合を占めて社会の不安定要因になればなおさらだ。

28. 一方、20世紀のクズネッツは資本主義が段階を進むと経済政策の選択や国ごとの違いなど関係なしに所得格差が自動的に下がり、いずれ受け入れ可能な水準で安定すると考えた。

29. クズネッツは統計手法を用いで推論を重ねたが、そのデータが1945年から1975年の物であったことが問題だった。クズネッツ曲線の理論はかなりの部分まで冷戦の産物だった。

30. 分配の問題は依然として重要。1970年代以来、所得格差は富裕国で大幅に増大した。特に米国で顕著だった。

31. 21世紀初頭の私たちは19世紀初期の先人たちと全く同じ立場にある。世界中で経済は激変している。今後数十年間でそれがどれほど大幅な変化になるか、富の世界的な分配がどうなるかは、非常に見極めにくい。

32. 本書の結論の一つ目。富と所得の格差について経済的決定論だけでは考えられない。富の分配はきわめて政治的であり、経済メカニズムだけに還元することはできない。

33. 1980年以降の格差拡大は特に課税と金融に関する政治的シフトによるところが大きい。

34. 結論の二つ目。富の分配の力学を見ると収斂と拡大を交互に進めるような強力なメカニズムがあると分かる。ただし、不安定性の拡大を止めるような自然の自発的プロセスなどはない。

35. 収斂を後押しするメカニズムとは格差を減らす力。収斂に向かう主要な力は知識の普及、訓練や技能への投資だ。知識と技能の分散こそが全体としての生産性成長のカギだし格差低減のカギでもある。

36. 仮説1、「人的資本上昇仮説」。たとえば生産技術がだんだん技術者に大きな技能を要求するようになると、所得における資本の比率が下がり、労働の比率が上がる。すると格差は能力主義的なものとなる。

37. 仮説2、「階級闘争」から「世代間戦争」へ。これは平均余命の増大によって自動的に起こる。これを支配する論理は障害サイクルを通じた貯蓄の論理だ。人は若い頃に富を蓄積して高齢に備える。医学の発達と生活条件の改善が資本の本質を完全に変えた。

38. 残念ながら、これら二つの仮説はおおむね想像上のものでしかない。

39. 知識や技能普及がどれほど強力でも、格差増大を促進する力に脱線させられて逆方向に作用することがある。

40. 訓練への適切な投資がなければ経済成長の果実からある社会集団が丸ごと排除されてしまうのは明らかだ。

41. 成長は一部の集団には利益になるが同時に別の集団に被害を与えることもある。

42. 要するに知識の普及は自然で自発的に起こる部分が限られているということ。相当部分は教育政策、研修へのアクセスや適切な技能の獲得、関連制度機関の存在に依存する。

43. 格差拡大の力とは何か?まずトップ所得層はすぐに残りの人々を大幅に引き離してしまえる。もっと重要なことは、成長が弱くて資本収益率が高い時には富の蓄積と集中プロセスが格差拡大に向かう。

44. 低成長経済では過去の富が当然ながら重要性を大きく高める。もし資本収益率が長期的に成長率を大きく上回っていれば、富の分配で格差が増大するリスクは大いに高まる。

45. この根本的な不等式をr>g(資本収益率>経済成長率)とする。この不等式が本書の結論全体の論理を総括する。

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.05.31更新

雑誌WEDGE(2017年5月号)で中西準子氏の「『ゼロリスク』の呪縛から逃れられない日本」という記事が掲載されていました。

築地市場の豊洲移転問題で「環境基準」が大きな問題になっているわけですが、「環境基準を大幅に上回った」と言うばかりで、その環境基準の意味が明らかにされていないのが問題だという趣旨です。
たとえばベンゼンの場合、環境基準は非常に厳しく、毎日2リットルの水を70年間飲み続けた場合、発がんリスクが10万分の1上がるレベルに設定されているそうです。仮に環境基準を100倍上回っても実質的に人体にまったく影響が出ないレベルなのだそうです。

ちなみにシアン(青酸化合物)は1万リットルを一気に飲む場合の致死量、ヒ素の場合はベンゼンと全く同じ基準なのだそうです。
こうした非常に厳しい環境基準は日本人の心配性の気質に合わせて形成されてきたとのことで、科学的にはまったく無影響なレベルの有害物質に過剰に心配するあまり、非現実的なレベルにまで基準が厳しくなってしまったのは問題とのことでした。

リスクマネジメントのポイントはリスクの許容範囲を定めることです。過剰に厳しい基準を設定すると、それをクリアするためのコストは莫大になります。ですから不安解消とコストとのバランスを良く考えた適切な基準設定が求められるわけです。ところがニュースでは「環境基準の100倍」といった説明だけが連呼され、その環境基準がどのような意味を持つかについては一切触れられていないわけです。

私たちは普通に食事をしても残留農薬やら化学物質やらを摂取しているわけですから、「食べ物を扱っているから」という理由だけで過剰な基準を設けるべきではないと思います。
私たちは普段からそこまで厳格なリスク管理をしているわけではありません。豊洲市場の問題にだけ妙に厳しい基準を持ち出すと、本来の目的とは異なる事態が生じるように思います。

環境基準

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.05.26更新

品質にしろ環境にしろISOの目標設定は行き詰まりを招きやすいものです。
「数値化」という部分を強調するあまり、枝葉の要素を指標として組み込んで、経営効果があまりないのに「目標を達成しないと」と変なところで頑張るようになったりします。

たとえば環境ISOの認証を取得した企業がやることに行き詰った結果、アイドリングストップとかコピー用紙の裏紙を使うと言った些末な目標を考え付いたりします。
本来やりたいこと、やるべきことが他にあるのに数値化された目標の設定が難しいため、表面上のつじつま合わせに走るわけです。これがISOの形骸化です。

といっても、本来やりたいことの数値化は難しいわけで、解決のためには新たな視点の導入が不可欠です。私は品質基準の在り方を深掘りすることが重要な切り口(環境の場合も本質は同じ)だと考えていますが、その具体的なツールとしては成熟度モデルが有効ではないかと考えるようになっています。

成熟度モデルは米国では国防総省と取引をするための条件になるなどスタンダードな基準になっていますし、内部統制の分野でもIT統制に導入されるなど、デファクトスタンダードともいえるものです。これをISOに取り入れたらと考えたわけです。

と思って調べたら成熟度モデルに基づいてISOコンサルティングを行っている事例もすでにあるようでした。しかし、説明を見る限りでは各企業の個性・特殊性を織り込んだモデルと言うよりはどの会社にも当てはまるような形式を崩せていないような印象を受けました。

ある会社が実現したいことは固有のものですから、そのゴールを明確に定義して、そのゴールに対して成熟度モデルを適用すればいいのではないかと考えています。実現したいことは個別具体的な課題であることが大切で、会社全体のマネジメントレベルの成熟を考えると失敗すると思います。ですから成熟度モデルの適用の在り方は千差万別になるはずです。

成熟度モデルのフレームワークは一見難しそうに見えますが、本質的には理想状態に至るまでを5段階に分けるというだけのことです。それぞれの段階を会社固有の事情に照らして具体的に定義すればそのまま目標にできると思います。成熟度モデルを使ったISOでは、おそらく会社特有の問題点とそれが解決された理想状態の定義に個性がらわれるはずです。また、中小企業の場合には複雑すぎる書式では使いこなせませんので、いかにして口語調のレベルにまで落とし込めるかも重要でしょう。

成熟度モデルは通常の仕事の定義においてもかなり有効性の高い視点なので、日常会話帳のレベルにまで簡略化したモデルができないかと考えています。

 

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投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2017.04.27更新

 毎年ご好評いただいております「TMAセミナー」を、6月15日(木)に開催いたします。テーマは「モチベーション」。よく耳にする言葉ですが、使う人によって意味はバラバラです。では、正しい意味は…?

 本セミナーでは、「モチベーションとは何か?」「やる気とどう違うのか?」について、ドラッカー、マズロー、アドラーなどの理論、脳科学等の研究結果、企業・軍隊・スポーツ・芸能分野などでの事例で多角的に考えます。

 ぜひともご参加くださいますようお願い申し上げます。

 

【講師】浅沼 宏和(㈱TMAコンサルティング代表取締役)

【場所】アクトシティ浜松コングレスセンター5F(JR浜松駅徒歩5分)

【日時】2017年6月15日(木) 18:30~20:20(受付開始18:10)

【料金】3,000円   

 ※セミナー終了後に、飲食店での気軽な懇親会を予定しています(懇親会会費 2,000円)

 【お申込み方法】

  1.FAXの場合:チラシの「セミナー申込書」に必要事項をご記入の上、053-473-5870へ送信してください。

  2.メールの場合:①件名に「セミナー参加希望」、②本文に「貴社名・参加者氏名・ご所属(ご職業)・懇親会参加の有無」をご記入の上、info@tma-cs.jpへ送信してください。

【ご連絡先・お問い合わせ先】

  ㈱TMAコンサルティング(セミナー担当:小杉、小野)

  TEL:053(473)4111 FAX:053(473)5870

  Email:info@tma-cs.jp

チラシはこちらからダウンロードできます ↓ 
http://www.tma-cs.biz/asset/TMAseminnar2017.pdf

 

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