浅沼宏和ブログ

2021.02.08更新

知識労働者というと高学歴者というイメージがあります。いわゆるエッセンシャルワーカーと知識労働者は別物なのでしょうか。

ドラッカーは必ずしもそのようには考えていませんでした。特に「テクノロジスト」、つまり知識労働と肉体労働の両方をこなす人々には非常に広範囲な職業が含まれるのです。

ドラッカーは1920年代のAT&T社の電話工事士、つまり電話機の設置作業者を「テクノロジスト」と考えていたのです。

当時のAT&T社にとって、電話工事士は大きなコストであるとともに顧客の不満の種であったといいます。その原因は、電話工事士の仕事ぶりが顧客ニーズに合っていないことにありました。そこで、電話工事士に顧客ニーズを理解させ、あらゆるクレームを24時間以内に解決するというルールを設けることにしたのです。

次に、電話の架設の仕事と修理の仕事を別の職種にすべきか、それとも一人で両方を担当させるかを電話工事士自身に決めさせました。彼らの答えの多くは、後者の「一人でこなす」というものでした。

そこで、AT&T社は彼らに、電話、交換機、電話網などについての理論的知識を体系的に身につけさせ、どのような問題であっても自分自身で原因究明できるように教育しました。こうして、顧客にはどのような電話機が適しているかを電話工事士たち自身が判断できるようになったのです。こうして、彼らは会社のセールスマンとしての役割も兼ねるようになりました。

さらに、一人で働くスタイルが基本である電話工事士たちに、自分たちの仕事の質を定義させました。彼らを細かく監督できない以上、自己管理してもらうしかなかったからです。そして、その仕事の質が正しいかどうかを苦情件数で判断したのです。

しかし、苦情件数は仕事の質の判断基準としては適切ではありませんでした。そこで、つぎに顧客満足度によって仕事の質を判断するようにしたのです。工事が終わって一週間ほどのちに、電話工事士自身が顧客の所に出向き、「結果に満足しているか」「他にも何かしてほしいことはあるか」といったことを訪ねさせたのです。

こうした取り組みによってAT&T社は電話工事士たちの仕事の生産性を飛躍的に向上させたのです。

AT&T社の取り組みは100年も前の事例です。しかし、テクノロジストが成果をあげるために必要な、①仕事の目的の明確化 ②仕事の質の定義 ③知識労働者としての自覚のすべてが入っています。業務改革以前のAT&T社の電話工事士たちは単なる肉体労働者でした。しかし、三つの視点に基づいた改革によって、彼らは立派なテクノロジストに生まれ変わったのです。

また、彼らのほとんどは小学校卒の学歴しかもっていませんでした。つまり、テクノロジストと学歴とは無関係なのです。知識労働の三つの視点を意識していれば、誰でも知識労働者になれるのです。

この事例はハイブリッドワークライフとは何か、エッセンシャルワーカーにどのように応用するかのヒントを与えてくれるのです。

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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