浅沼宏和ブログ

2017.08.04更新

第5章 長期的に見た資本/所得比率

1. 18世紀以降のヨーロッパと北米の資本の変化を長い目で見ると富の性質は一変している。農地はだんだん工業・金融資本と都市部の不動産へと変わっていった。

2. しかし、驚くべきことに国民所得に対する資本ストックの総価値の比率は超長期においてはあまり変わっていない。

3. ヨーロッパでは国民資本は国民所得の約5、6年分だが、米国では4年分をわずかに超える程度になっている。この点が大きく違っている。

4. ヨーロッパでは1914-1945年のショックの影響が長く続き、1920-1980年代まで資本/所得比率はヨーロッパの方が低かった。それが1990年代に米国の水準を上回り、現在では5、6年分になっている。この構造上の違いを説明する必要がある。

5. 資本主義の第二基本法則‥‥β=s/g  資本/所得比率β、貯蓄率s、成長率g

6. 第二基本法則は、たくさん蓄えてゆっくり成長する国は、長期的には莫大な資本ストックを蓄積し、それが社会構造と富の分配に大きな影響を与えることを意味する。

7. 第二基本法則は漸近的、つまり長期的に見た場合のみ有効。富の蓄積には時間がかかるので法則の実現には数十年かかる。

8. 第二基本法則が有効なのは人間が蓄積できる資本に注目した場合だけ。国民資本の相当部分が純粋な天然資源ならば、βは貯蓄の恩恵を全く受けなくても非常に高くなる。

9. 第二基本法則が有効なのは資産価格が平均で見て消費者物価と同じように推移する場合だけ。不動産・株の価格が他の物価より急速に上昇すると国民資本の市場価値と国民所得の年間フローとの比率βは新たな貯蓄が無くても非常に高くなりかねない。短期的には相対資産価格の変動は数量効果よりかなり大きいことが多い。

10. β=s/g は当該国民が蓄財する理由と全く独立に成立する。

11. β=s/g の法則は世界大戦、1929年の危機を説明できないし、資本/所得比率に対する短期的ショックも説明できない。しかし、ショックや危機の影響が無くなった時、資本/所得比率が長期的に向かう潜在的な均衡水準を教えてくれる。

12. 富裕国の1970-2010年ではすべての国々の資本/所得比率は短期間で絶えず変動している。その理由は不動産・金融資産の価格が変動しやすいことにある。

13. 資産を支払額以上の価格で売却できる見込みがある限り、資産のファンダメンタルズによる価値より多く払う方が個人としては合理的。これが不動産・株の投機バブルが存在し続けてきた理由。

14. 日本では1990年代前半に民間資本の価値が激減し、1990年代半ば以降は国民所得のおよそ6年分で安定した。

15. 1970年代、富裕国すべてにおいて民間財産の総価値は国民所得の2-3.5年分だった。それが40年後の2010年には4-7年分になっている。バブルを無視しても富裕国では民間資本が強力な復活を遂げている。

16. この構造的進化は経済成長の鈍化、特に人口増加の低迷に貯蓄率の高さが相まって、 β=s/g の法則により自動的に長期的な資本/所得比率の増加をもたらした。

17. さらに二つの理由。一つは1970-80年代に民営化と公共財産の民間移転が進んだこと、もう一つは不動産と株式市場の価格に影響した長期的キャッチアップ現象。

18. 低成長と高貯蓄率こそβ上昇の原因。

19. 日本では1970年以降、年間約15%の貯蓄率に2%程度の経済成長率であったため国民所得6-7年分に相当する資本ストックを蓄積できた。

20. 民間貯蓄の構成要素は二つ。民間個人が直接行った貯蓄、企業が所有者である民間人にかわり直接的あるいは金融投資を通じて間接的に行う貯蓄。

21. 長期的には株価が消費価格より急速に上昇する傾向があるが、それは基本的には内部留保により企業が規模と資本を増やせるから。

22. 株主の立場からは配当の税率の方が内部留保の税率より高い。資本の所有者にしてみれば配当より内部留保し再投資してもらったほうが好都合。

23. 内部留保の大部分は建物や設備の維持に回る。純投資の資金として残るのはわずか。

24. 民間財産が復活を遂げた原因の一つは国富の民営化。富裕国すべてで公的貯蓄の取り崩しと結果的に生じる公共財産の減少が民間財産増加の相当部分を占めた。

25. 過去数十年の資本/所得比率の増加を説明してくれる最後の要素が資産価格の歴史的回復。第二次大戦による不動産・株の価格の低迷はすでにキャッチアップ・プロセスを完了させている。

26. トービンのq=時価/簿価 は増加傾向にある。独・仏・日。

27. 日本とドイツは過去数十年間、とりわけ2000年代にかなり多くの純外国資産を蓄積した。

28. 日本の例はβ=s/gの法則が非常に大きな国際的資本格差を生じさせることを示す。成長率、貯蓄率のわずかな差が国ごとの資本/所得比率に大きな差をもたらす。

29. βに注目すれば経済の過大評価を検出し、賢明な政策や金融規制を導入してバブルを抑制することができるかもしれない。

30. 小さなネット・ポジションに膨大なグロス・ポジションが隠れているおそれがあることにも注意すべき。

31. あらゆる国がかなりの程度他の国々に所有されているのが現在の金融グローバル化の特徴のひとつ。これは小国の重大な脆弱性とネット・ポジションの世界的分布の不安定さを示す。

32. 動学法則β=s/gを使えば世界の資本/所得比率が21世紀にどんな水準になるかを検討できる。2100年には地球全体が20世紀初めのヨーロッパのようになっている可能性がある。

33. 動学法則β=s/gは資本蓄積にとって低い経済成長率の役割がいかに重要かを示している。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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