浅沼宏和ブログ

2017.08.03更新

1章 所得と算出

1. 生産からの収入は労働と資本の間でどのように山分けされるべきかという論点。

2. 長期的に見た資本と労働の分配の関係は実は不安定。多くの経済学者は労働3分の2、資本3分の1の比率で分配が安定していると誤解している。

3. 第一次大戦、大恐慌、第二次大戦により資本分配率は1950年代に史上最低になった。

4. 今日、富裕国では資本の重要性が高まっている。人口増加と生産性成長の両方が減速したのが原因。

5. こうした変化を理解する最も有意義な方法は資本と労働の分配率ではなく、資本/所得比率の変化を分析すること。(資本の総ストックと年間の所得フローの比率)

6. 国民所得はある国の住民に提供されたその年のすべての所得の総和。GDPはある国の国境内でその年に生産された財・サービスの総和。GDPから減価償却費分(約1割)を引くと「国内純生産」(国内生産、国内産出とも)になる。そこに外国からの純収入を加えると国民所得になる。

7. 国民所得=国内産出(国内純生産)+外国からの純収入。

8. 国内生産は高くても外国に流れる利潤・賃料が大きければ国民所得は小さくなる。逆に他国の資本の相当部分を保有している国は、国内生産よりはるかに高い国民所得を享受できる。

9. 現在、多くの国は思った以上にバランスの取れた状態にある。主要国では国民所得と国内生産の乖離は1―2%に過ぎない。

10. 資本を巡る格差は国際的問題というよりは国内問題。国内での資本の所有格差が問題を引き起こしている。

11. 成長プロセスとそれが生み出す格差を理解するには人的資本と非人的資本を区別する必要がある。ここでは非人的資本を「資本」と呼ぶ。

12. 資本には価値の蓄積するものであり生産要素でもあるという二重の役割がある。

13. 住宅不動産も「住宅サービス」を生み出す資本資産と考えられる。その価値は賃料相当額で計測可能。

14. 国富=民間財産+公的財産、国富=国民資本+純外国資本

15. 第一次大戦後、英仏は他国に対し大幅な純プラス資産ポジションを得ていた。

16. 1980年代以来生じた金融グローバリゼーションによって多くの国が純資産ポジションをおおむね均衡させた。ただし、相互に巨額の資本受益権を持ち合うという関係になっている。

17. あらゆる国の純ポジションの合計は必ずゼロになるので地球の富の総額は地球全体の「国内」資本に等しい。

18. 所得はフロー、資本はストック。資本/所得比率をβとする。

19. 今日の先進国ではβはだいたい5―6くらい。資本ストックはほぼ民間資本。

20. ただし、日本とイタリアのβは6以上あり、米独は5以下。

21. 世界の富裕国の一人当たり国民所得は3万ユーロくらい。

22. 平均所得の数字の背後には大きな格差が隠れている。一部は労働賃金の差だが、資本所得の差はさらに大きい。

23. 資本所得の格差の原因は極端な富の集中の結果。

24. 人口の大半は蓄積した富が少なく、多くは1年分の所得よりかなり少ない。せいぜい数週間から一か月分の賃金程度の貯金があるだけ。

25. 資本主義の第一基本法則:α=γ×β  *γ=資本収益率  α=資本収益のシェア β=資本所得比率

26. β=600%、γ=5%ならα=30%になる。つまり国民所得における資本収益のシェアは30%ということになる。

27. 三つの最重要概念‥資本/所得比率、所得中の資本シェア、資本収益率

28. 資本収益には、利潤、賃料、配当、利子、ロイヤルティ、キャピタルゲインなどが含まれる。利潤率や利子率よりはるかに広い概念。

29. 株式の平均長期収益率は多くの国で平均7―8%。

30. 2010年頃の富裕国はβ=600%、資本シェア30%、α=5%ぐらいだった。

31. βはその社会がどれだけ資本主義的かを表している。

32. 次に貯蓄率、投資率、成長率の概念が重要になる。ここから資本主義の第二基本法則が出てくる。貯蓄率が高いほど、成長率が低いほど、資本/所得比率(β)は高くなる。

33. 1900年から1980年では世界の財・サービスの生産の7~8割は欧米に集中した。しかし、2010年には欧米のシェアは5割にまで低下した。

34. 欧米は産業革命で実現したリードで人口比率の2―3倍の世界産出シェアを実現させた。つまり一人あたりの産出が世界平均の2―3倍高かった。

35. 1人当たり産出がこれだけ開いた時代は終わりつつある。*収斂の時代

36. ヨーロッパが最高の経済的地位を獲得したのは第一次大戦前夜。世界産出の5割近くを占めていた頃。以後、じわじわとその地位を下げている。

37. 米国は1950年代にピークに達し、世界産出の4割を占めていた。

38. 2012年、世界人口は約70億人、世界産出は約70兆ユーロ。つまり世界の1人当たり産出はほぼ1万ユーロ。平均月額所得で約760ユーロ。

39. 世界の格差は、下は一人当たり月額所得150―200ユーロの地域(アフリカ、中東、インド)、上は2500―3000ユーロの地域(西欧・北米・日本)。格差は10―20倍。世界平均は中国の平均と大体同じで月額600―800ユーロ。

40. 世界の格差を知るには現行為替レートではなく、購買力平価を使う方が良い。為替レートよりも安定しているため。

41. 2012年、最富裕国(EU、米国、カナダ、日本)が世界所得に占める割合は購買力平価で46%、現行為替レートで57%。

42. 世界の所得分配は産出の分配より格差が大きくなる。富裕国は他国への投資による資本からの所得フローがあるから。

43. 具体的には主要先進国は現在、国内生産より少し高い国民所得を享受している。相互投資で外国からの純所得はほんの少しプラスであるため。

44. 総所得と総産出が大きく一致しない唯一の大陸はアフリカ。資本のかなりの割合が外国人に保有されているため。アフリカ資本の約2割が外国人に所有されている。

45. 第一次大戦前、ヨーロッパ列強はアジア・アフリカの国内資本の3分の1から2分の1を所有していたと推定される。工業資本に関しては4分の3だったようだ。

46. 理屈の上では富裕国が貧困国の資本の一部を持つことは格差の収斂を後押しするはず。富裕国が手持ち資金を投資すれば投資収益が得られ、貧困国は生産性をあげて富裕国とのギャップを埋められるようになる。

47. しかし、上記の理論には二つの欠陥がある。

48. 欠陥①:1人当たり産出が収斂しても一人当たり所得の収斂は保証されない。資本の完全移動性、国同士の技術水準・人的資本が等しくなければ富裕国はいつまでも貧困国の資本を持ち続け、格差は拡大する。

49. 欠陥②:近年、先進国に近づきつつあるアジア諸国はいずれも巨額の外国投資の恩恵を受けてはいない。物的資本、人的資本への投資を自力で賄ってきた。

50. 最新の研究では人的資本が長期成長のカギとなることがわかっている。

51. 他国に所有された国はあまり成功していない。将来性のない分野に特化したり、慢性的政治不安定にされたりしたことが原因。

52. 自国資本が外国に所有されている国では、それを自国に収容しろという社会的欲求が高まり政治的に不安定になりがち。

53. 国際レベルでも国内レベルでも、収斂の主要なメカニズムは歴史的経験から見て知識の普及にある。つまり、最貧国は富裕国と同水準の技能・教育を実現しなければ格差を収斂させることはできない。

54. 知識の普及は国際的な開放性と貿易により加速される。各国の政策ももちろん重要。

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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