浅沼宏和ブログ

2017.02.02更新

IDEOのデザイン思考の提唱者、ティム・ブラウンの著書の抄録第二弾です。
デザイン思考は製品そのものではなく価値をデザインする考え方です。
今回は、「プロトタイプ」「物語」「経験」といった概念が解説の中心になります。価値をデザインして成果をあげるための具体的視点が説明されています。

ティム・ブラウン著『デザイン思考が世界を変える』抄録(2)

40. クライアントをデザイン経験に参加させることがデザイン思考を広めるのに役立つ。

41. あらゆるデザイン・プロセスはさまざまな期間を循環する。実験とひらめきを繰り返す曖昧な期間、大きなアイディアに思いを巡らす期間、細部に集中する期間。

42. デザイン思考は山から山へと優雅にジャンプするようなものではなく、私たちの気質やコラボレーション能力を試すものである。

43. 選択肢を生み出すには発散的思考が、選択を行うには収束的思考が実用的。

44. デザイン思考家のプロセスは発散的思考と収束的思考をリズミカルに行き来する。行き来を繰り返すほど曖昧さが消えて緻密になっていく。

45. 機能過多なデザインが多い。機能過多とは本来シンプルな製品に価格と複雑さを増すだけの不要な機能を詰め込むという意味。

46. 「分析」と「綜合」という概念。分析的思考がなければ経営管理はできない。しかし、創造プロセスでは綜合、つまり部分をつなぎ合わせてアイディア全体を生み出す集約的行為が必要になる。「分析」と「綜合」は同じぐらいに重要。

47. 膨大な生の情報から価値あるパターンを抽出する「綜合」という行為は基本的にはクリエイティブな行為になる。

48. 個別の情報が一貫性のある刺激的な物語へと綜合されると、もう一段高いレベルの綜合が始まる。たとえば低価格と高品質の綜合。

49. 発散的プロセスと収束的プロセス、分析的プロセスと綜合的プロセスの間を絶え間なく行き来するのがデザイン思考の種。

50. クリエイティブ・チームには間違いを犯す時間・空間・予算を与えるべきだ。

51. リスクに対する許容性は企業のビジネス戦略だけではなく、企業文化とも大きな関わりがある。

52. アイディアへのアプローチ原則:①最善のアイディアは組織全員が関わる場合に生まれる ②変化する外的要因にさらされる人々が最も適任 ③アイディアの良し悪しを発案者がだれかで判断しない ④口コミを生むアイディアが良い ⑤上層部のリスク許容度を明確にする ⑥組織に方向感覚をもたらす包括的目標を明確にする

53. 提案を行動に移す明確なメカニズムがないために結果的に何も変わらないことも多い。必要なのは組織のトップ近くにいる人々が真剣に取り組むこと。

54. 実験意欲と楽観主義は対をなす文化。

55. ブレーンストーミングは体系から脱却する体系的手法。慣れが必要。

56. デザイナーが絵の描き方を学ぶのはアイディアを「表現」するため。

57. デザイン思考の発散的・探究的段階ではデッドラインが重要な意味を持つ。経験豊富なリーダーはデッドラインを利用して「選択肢」を「決断」に変える術を知っている。

58. あらゆるプロジェクトには制約がある。技術的制約、スキルの制約、知識の制約など。しかし、最も厳しい制約はおそらく日程の制約だ。

59. インターネットがいくら発達しても多種多様な可能性の中から一つの真実を導き出し、詳細な分析を綜合して全体を築き上げるアルゴリズムが現れない限り、デザイン思考家たちの活躍する場はなくならない。

60. デザイン思考は芸術でも科学でも宗教でもない。デザイン思考は統合思考を行う能力(相反する複数の考えから新しい解決策を導き出す能力)。

61. 相反する考えを対比させて新しい解決策を導く思考ができる人は、ひとつの考えしか追えない人よりも困難な問題に取り組むときに優位に立てる。

62. 経営者の資質とはデザイン思考家の資質と同じ。

63. プロトタイプ製作の定義をプロセスのもっと初期段階にまで拡大する必要がある。

64. デザイナーでなくてもプロトタイプ製作の習慣を作ることはできる。

65. プロトタイプ製作は新しいアイディアを生み出し、推進する上ではるかに効果的。

66. プロトタイプ製作はむしろ結果をより早く生み出すことに役立つ。さまざまなアイディアを同時に探索することもできる。初期のプロトタイプは簡素でラフで安上がりでなくてはならない。アイディアに大きく投資するほど、そのアイディアにのめり込むことになる。

67. プロトタイプはフィードバックを得てアイディアを前進させるのに必要な時間、労力、投資だけをかけるようにするべき。

68. プロトタイプ製作の目的は実用的な模型を作ることではない。アイディアを形にし、強みと弱みを明らかにし、より精巧で緻密な次世代プロトタイプの方向性を明らかにすること。だから、プロトタイプの範囲は絞らなければならない。

69. 「必要最低限のプロトタイプ製作」とはプロトタイプから何を学びたいかを把握し、その目的を満たせるだけの精度で製作するということ。

70. 形にしてアイディアを模索、評価、促進できるものであれば何でもプロトタイプといえる。

71. シナリオもプロトタイプの一形式。シナリオは物語の一種で想定される将来の状況や状態を言葉や絵で説明するもの。シナリオをアイディアの中心に据えることで技術的・外見的な細部に迷い込むのを防ぐ働きがある。

72. 例―旅のプロセス:「駅に向かう」「駐車場を探す」「切符を買う」「ホームを探す」といった10のステップで成り立っている。

73. 現代の複雑なアイディアではプロトタイプを野に放ち、どう生き残り、順応するかを確かめる必要がある。

74. 新しいビジネス戦略、ビジネス契約、組織のデザインといった抽象的課題についてもプロトタイプ製作の果たす役割はある。

75. 組織は環境変化に合わせて進化しなければならない。プロトタイプはこうした問題にも役立つ。

76. 世の中をプロトタイプ化する。

77. プロトタイプの展開には物語と自分自身とのかかわりを人々に理解させるために何度も物語を繰り返す必要がある。人々の行動を変えるまでにはさらに繰り返さなければならない。

78. 組織は継続的変化が避けられない。そしてあらゆるものはプロトタイプでしかない。良いプロトタイプとは完璧に動作するものではなく、目的・プロセス・自分自身について何かを教えてくれるプロトタイプだ。

79. アイディアをプロトタイプにすることで手痛いミスを防ぐことができる。早い段階でアイディアを複雑化させたり、見込みのないアイディアに固執することを防ぐ。

80. プロトタイプはチームが何かを学び取り、次の段階に進むのに最低限必要な精度でアイディアを形にする。

81. デザイナーには設備の整った作業場が必要かもしれないが、デザイン思考には必要ない。

82. プロジェクトが進むにつれてプロトタイプの数は減り、精度が上がっていく。

83. 細心の注意で経験がデザインされなければ機能そのものが台無しになる。

84. 最良の経験とはサービスの提供者によって現場で提供されるものであり、実行が全て。

85. 経験とはより深く、有意義なものであり、受動的な消費ではなく能動的な参加を含む。

86. 20世紀後半の受動的消費の時代から自らの経験に能動的に参加する時代へと移りつつある。

87. 現代の企業はもはや人々を受動的な消費者として扱ってはいられない。

88. 人々に行動を変えさせるのは難しい。だから、慣れ親しんでいる行動を元にする方法が良い。

89. 顧客の経験価値をあげるには、通常の枠組みを超えて顧客一人一人に合わせたユニークな経験をデザインしなければならない。

90. 経験は大量生産された製品や標準化されたサービスとは異なり、特別な経験や自分専用の経験と感じられてこそ価値を発揮する。しかし、多くの場合、経験の提供者がタイミングよく特別なサービスや適切なサービスを付加できるかどうかにかかっている。

91. 経験価値文化とは自発性の文化である。

92. 私たちは物語を通じてアイディアに文脈や意味を与える。デザイン思考では人間の物語の能力が重要な役割を果たす。

93. 私たちがデザインしようとしているのは「名詞」ではなく「動詞」である。例―「電話(物)」、「電話をかける(経験)」

94. 優れた物語の根底にはアイディアによってニーズを強力に満たす方法を示す中心的な筋書きがある。

95. 最終製品が物語そのものである場合もある。

96. デザイン思考家の視点からは新しいアイディアに耳を傾けてもらうには価値のある物語を説得力ある方法で伝える必要がある。

97. 効果的な物語は時間と言う要素を利用してデザイン思考の総合的プログラムを前進させるキャンペーンの一部。そこには開始と終了と言う二つの重要な瞬間がある。

98. 組織全体にわたる変化を実現するには体系的なアプローチが必要だ。

99. デミングが広めた品質活動のようにデザイン思考も体系的に適用可能な管理アプローチへと転換できる可能性はある。

100. 顧客をより深く理解できればより効果的にニーズを満たすことができる。またビジネスの世界ではアイディアは収益性のテストを潜り抜けなければならない。

101. 消費者は新たな欲求を抱いている。ブランドに対して今までと異なるつながりを持ち、提供商品の決定への参加を望んでいる。購入後にも関係を保ちたいと思っている。

102. 変化は三つのレベルで起きている。①製品とサービスの間の境界にブレが生じている ②製品サービスが複雑なシステムへと変化する中でデザイン思考が新たな規模で適用されつつある ③消費の限度の時代が訪れつつある。

103. ある意味では全ての製品が既にサービスの一面を備えている。

104. 逆にサービス企業が将来的なイノベーションに投資する文化はあまり見られない。

105. 「デザイン」は満足できる経験を提供するためのもの。「デザイン思考」はだれもが対話に参加できる多極的な経験を生み出すためのもの。

(つづく)

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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