2022.11.15更新

              

  以前、国や地方公共団体などが大株主になっている東京中小企業投資育成株式会社から「社内不正防止セミナー」を依頼されたことがあります。私が内部統制に関する国際的なライセンス・公認内部監査人の資格を持っていたためです。

  担当者の方に「どうしてこのテーマを依頼したのですか?」とお尋ねしたところ、「社員数が 100 名を超えた企業では社内不正に悩んでいる場合が多いからです」とのことでした。社員が増えると経営者が社員の行動を把握できなくなってきます。また、企業規模の割には管理の仕組みが不十分な場合が多いため、社内不正が起きやすくなるのです。

  心理学者のクレッシーが提唱した「不正のトライアングル理論」という考え方があります。3つの条件が重なると不正が起きやすくなるというものです。3つの条件とは、①動機 ②機会 ③正当化 です。

  ①動機とは、金銭的な問題や欲求、仕事上の好成績へのプレッシャー、ミスや失敗を隠したいという気持ちなどです。中でも金銭的な動機が最も多いと言われています。

  ②機会とは、内部統制や社内監視が機能していない、もしくはこうしたものを無視できる立場にいるような場合のことです。とがめる人が誰もいなければ、出来心がわいてきやすいですし、不正行為も容易に行えてしまうのです。

  ③正当化とは、不正行為への心理的抵抗が少ない状況を指します。「このままでは会社が危機に陥る」と考えると、不正行為も仕方がないという気持ちになりがちです。「ちょっと借りるだけ。後で返せばよい」と考えると、目の前のお金を懐に入れることへの抵抗感も少なくなるでしょう。「他の人もやっている」、「経営者は悪い人だから懲らしめてやる」と考えると、不正行為が正しい行為に思えてきたりするのです。

  この3つの条件がそろうと不正行為が起きやすくなります。逆に言えば、この3つの条件が全部そろわなければ不正行為が起きにくいわけです。これが社内不正を防止するポイントになります。

  また、英国には状況的犯罪予防論という考え方があります。5つの状況を用意すれば不正は防げるというものです。その 5 つの状況とは、①物理的に実行しにくい状況、 ②すぐに見つかる状況、 ③やっても割に合わない状況、 ④その気にさせない状況、 ⑤言い訳(正当化)させない状況、の5つです。

  不正を行う人が一番悪いのですが、不正を起こしやすい状況、つまり、不正のトライアングルの3つの条件がそろうのを放置していたり、犯罪を予防する5つの状況を作り出すことを怠った企業の側にも大きな責任があります。

  企業管理のコンセプトとして“内部牽制組織”という考え方があります。役割、特に金銭に関する役割を分割して相互に監督し合う体制を作ることです。例えば、支払いを計算・承認する役割と実際に支払う役割を分離すること、現金を扱う役割と記録する役割を分離することなどによって相互に牽制させる仕組みがそれに当たります。

  小さな組織であれば比較的、個人の行動に目が届きますが、それなりの規模の組織では、役割を分割し、それぞれがけん制し合う仕組みにすることが大切になります。

 


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投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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