現在、経団連に関連する通信講座会社から依頼されて「時間管理」のテキストを書いています。色々な考え方があると思いますが、この講座ではドラッカーの5つの習慣、トヨタ生産方式、そして最近流行の行動経済学の理論を参考にしています。
行動経済学者のムッライナタンとシャフィールは「いつも時間がないあなたに」という本の中で、「時間管理とは希少な資源の使い方の問題だ」といっています。つまり、「時間が足りない」と「お金が足りない」は一緒の問題だというのです。
それどころか、「人間関係が足りない」、「やる気が足りない」も同じ種類の問題だといいます。なんだか不思議な話ですが、時間、お金、人間関係、やる気は希少な資源という点では同じだというわけです。そして、不足するものがあると、それが別の問題を引き起こすのだといいます。
何かが足りないと感じると、人の意識はそこに集中します。すると足りないものを大事に使うようになります。お金が足りなければお金の使い道を細かく考えます。時間が足りなければ少しの時間を有効に使おうとします。すると集中力が発揮されるのです。
「なんだ、足りないほうがいいことがあるじゃないか」と思われるかもしれません。ところがいい事ばかりではありません。何かが足りないと、足りないものに気を取られてしまうのです。すると、うっかりミスや誤った判断をすることが増えるのです。集中の良い点を「集中ボーナス」、集中して周りが見えなくなることを「トンネリング」といいます。トンネリングは人間の処理能力の限界から生じます。
良い集中のためにはトンネリングの欠点の影響をできるだけ少なくすることが必要です。しっかりと準備し、落ち着いた状況で腰を据えて仕事をすることが大切なのです。逆に、悪い集中は緊急事態やトラブルなどに対処する時に生じやすくなります。準備不足のまま集中すると、別のミスやトラブルが起きやすくなるのです。時間管理のポイントとは、できるだけ意図的な集中、つまり“良い集中”の時間帯を増やすことです。それには準備や段取りが大切になります。
しかし、人間は一日中全力で仕事をすることはできません。個人差はありますが高いレベルの集中は30分から90分ぐらいしか続かないと言われています。しかも、集中力のピークは起床後2時間ぐらいにやってくるそうです。ということは、重要な仕事は午前中に1~2時間を上限に計画したほうが良いわけです。
もちろん、仕事の都合で午後にたて続けに重要な会議、プレゼン、商談を行うような場合もあるでしょう。そういう場合には、それらの仕事の準備は午前中に行うなど、できるだけ午前を生かすように工夫するのです。一日の仕事がうまくいくかいかないかは、午前中の使い方で決まるのです。人間の有限な処理能力を午前中にうまく使うことが時間管理のポイントなのです。
また、車が多いと道路が渋滞するように、仕事の予定を入れすぎても全体の効率が悪くなります。ドラッカーも「成果をあげる人は急がない」と言っています。毎日、朝から晩まで全力で仕事をする計画を立てても長続きしません。最も重要な仕事を毎日、午前中に一つ計画し、着実に実行し続けることが、長い目で見て成果を大きくするコツなのです。一つの仕事に集中し、あせらずじっくり取り組みたいものです。